caucus は英国では政党の地方支部幹部会を言うが、軽蔑的なニュアンスがある。
多くの翻訳が、この造語をそのまま音訳して「コーカス・レース」とする。訳しても「どやどや競争」など、語本来の意味は軽視しているが、そんなに訳しにくい部分だろうか?
もともとは、古来ありがちな政治風刺であり、それ以上のものだったとは考えにくい。
立脚点が全員まちまちで、勝手に走り出し勝手にやめるので、全員が勝者を名のれるレース。「政争」とも「(党内の、あるいはオックスフォード学内の)選挙戦」とも「会議は踊る」的状況ともとれるが、例えば「政策競技会」という程度の訳が、今までなかったのが不思議だ。
もちろん、子ども向けにはふさわしくないという認識もあずかってのことだろうが、レースの直前の場面が、堅苦しい歴史教科書からの引用であることからしても、ここはむしろ堅い訳がふさわしい。
ただ、結果的に「コーカス・レース」のノンセンスとしての完成度が高すぎたため、そんな風刺的意味にこだわるのは、かえってつまらない、ということにもなったのだろう。
原義を無視した翻訳としては、中山知子(1970.)の訳中にある「カワカス・レース」が傑作。 矢川澄子訳(1990.)「堂々めぐり」はドードーと引っ掛けた。
さくまゆみこ訳(1997.)で「カンソウ・レース」としたのは乾燥/完走と掛けたわけだが、高山宏訳(1994.)の「乾燥にはコーカス競争の完走が一番、ということだ」との台詞から発想したものか。
(最終更新 2015年 5月16日)