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お兄さんのラテン語の文法書で、いつか見たことがある。「ネズミは、ネズミの、ネズミに、ネズミを、おおネズミよ!」ってね。
(she remembered having seen in her brother's Latin Grammar,“A mouse―of a mouse―to a mouse―a mouse―O mouse!”)

ラテン語には、主格「〜は」、属格「〜の」、与格「〜に」、対格「〜を」、奪格「〜によって」「〜で」「〜から」、呼格「〜よ」 という 6つの格があり、男性名詞・女性名詞、単数・複数等の条件で、実に複雑に語形が変化する。
が、ここはラテン語の 「英訳」 だから、mouse という語は全く変化していない。その点で、やはり「子ども向け」なわけだ。

(余談、というか私見だが、英語が現在「世界言語」のように使われる理由のひとつは、語形変化が ほとんどないことだろう。
ネイティヴ・スピーカーでもない限り、格変化は身に付きにくい。もっともラテン語は「書き言葉」で、スピーカーなど いないのだが)

アリスの「活用」から奪格が抜け落ちていることは『決定版 注釈アリス』にも補記されているが、ガードナー自身の見解は、そう堅苦しいものでもないようだ。
Alice の兄、Edward Henry Liddell(1847-1911.)の使ったラテン語文法書とは何か、という問題に対し、『新注アリス』では 『Comic Latin Grammar』(1840.)ではないかとのセルウィン・グッデイカー〔Selwyn Goodacre〕の主張を紹介している。
この本は、執筆者もイラストレーターも 《Punch》(テニエルの活躍した風刺漫画雑誌)の系統だ。
特に挿画家ジョン・リーチは、ディケンズとのコンビで有名な人物。