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Magritte,Alice in Wonderland(1945.) Magritte,Alice in Wonderland(1949.)
種村季弘×高橋康也の対談では目鼻の付いた木を、ダフネ(ギリシャ神話で月桂樹と化したニンフ)のように変身したアリスと見たが、実のところ“アリス”か否かどころか、性別も判然としない、マグリット版「不思議の国のアリス」。 雲にのった洋梨は、機嫌が良かったり悪かったりで、見る者に“解釈”を迫るが……イメージとしてはハンプティ・ダンプティに近いものの、梨は樹立や雲と同様、マグリットがしばしば用いるアイテムでしかない。

故・高橋康也教授はマグリットとキャロルの共通項について「マグリットの絵の明確な輪郭、奇妙にフラットな画面は、キャロルの本質をよくつかまえているという気がします」と述べた。 つまり、知性に基づく明晰さと、奥が深そうに見えながら“内実”を求めない表層性に注目したのだと思うが、これは「アリス」と題された以外のマグリットの絵に、却ってよく当てはまると思う。

※ ルネ・マグリット(1898-1967.)の絵画には、当然ながら著作権が存在します。ここでの紹介は、あくまで「批評的引用」の範囲に留まるよう配慮し当サイト管理者の自己責任により公開するものなので、画像への直リンク等はご遠慮下さい。

現代英国の絵本作家アンソニー・ブラウンについて、 三宅興子教授は『イギリスの絵本の歴史』(岩崎美術社、1995.)の中で、「シュールリアリスムの画風、特にルネ・マグリッドの影響が一目瞭然である。現実を越えて現実をみる目で、タブローの一枚絵でなく、一冊の絵本を構築する力は、ブラウンの独自のもの」と評している。
さらにブラウンが、マンチェスターの病院で人体解剖図などを描く仕事をしていた経験からハイパー・リアリズムを身につけ、これをシュールな表現と融合しながら絵本を描いている点も指摘する。
周知のとおり、ブラウンは『不思議の国』の挿絵画家のひとりなのだが、一方で9才の頃から『不思議の国』が好きだったという履歴も知られている(ちなみに作家デビュー作は『Through the Magic Mirror』で、『鏡の国』の原題 Through the Looking-Glass を意識したもの)。
かつてキャロルが、魚の骨や人体骨格の標本を写真に撮ったのは、医学部教授アクランドとの関係などあってのことで、単純にキャロルの意思とも言えないが、何か透徹した視線のようなものを感じさせるエピソードとして印象に残る。
あるいはブラウンのような後代の画家のスタンスを追求すれば、マグリットとキャロルをつなぐ糸も見えて来るのかも知れない。

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