あちこちの海産品(Seaography)
Geography「地理」のGe-をSeaに、すげ変えただけの造語なのだが、いかにもありそうに思える。
拙訳は造語とは言えないが「海産物」「特産品」の合成語と見てほしい。
拙訳は日本の学校の初等教育を意識しつつ、なるたけ原語と同趣旨のシャレをと頭をひねったものだったが、ここは「……学」という形の訳語のほうがふさわしいと思える根拠もある。
ヴィクトリア期(をはさむ前後の時代)には多くの新たな学問が誕生しているのだ。例えばメルヴィン・ブラッグ『英語の冒険』(三川基好訳、アーティストハウスパブリッシャーズ/角川書店、2004.)18章「蒸気機関、街路、そしてスラング」では次のように言う。
科学技術に関する語は急速に増加した。〔中略〕十九世紀になると、化学、物理学、生物学に関する語がどっと〔英語の語彙に〕入ってきた。
biology(生物学)という言葉自体が一八一九年に使われはじめ、petrology(岩石学、一八一一年)taxonomy(分類学、一八二八年)morphology(形態学、一八二八年)、
palaeontology(古生物学、一八三八年)、ethnology(民俗学、一八四二年)、gynaecology(婦人医学、一八四七年)、histology(組織学、一八四七年)、carcinology(甲殻類学、一八五二年)がそれに続いた。
これらの学問の発展、細分化にともない、それぞれの分野で新語も急増したのである(メルヴィン・ブラッグは、そうした新語の創造に際して、ラテン語・ギリシア語の語彙が使われたことや、接頭辞・接尾辞の操作によるものが多いことを指摘している)。
私がここで主張したいのは、別段キャロルがこの風潮をからかったとかいうのではなく、ただキャロルの言葉遊戯が その時代の言語感覚とシンクロしたものだった、ということだ。
もちろん「海理学」等の訳で、読者が何かの含蓄を感じてくれるとも期待できないのだが。