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池(the pool)

ここを素直に読めば、物語冒頭とラストの the bank というのは川づつみでなく、池のほとりということになる。「河土手」「川べり」といった訳が多いのは、現実のエピソードに引きずられてしまっているのだろう。
『地下の国のアリス』のラストには「川」が、姉の夢想の形で登場しているが、『不思議の国』では実のところ巻頭詩にすら「川」とは書いていないのだ。
もっとも『鏡』巻末の詩には、drifting down the stream    という句が用いられ、献呈詩の舞台が「川」であることに間違いはないが、その用例も現実の光景というよりは人生の比喩だろう。

the pool を「水たまり」と訳し、川は川として区別する例もあるが、水たまりに葦が生えるというのも妙だ。
十一氏は、pool を川の「淵」と訳し(2016年10月更新時)、魅力的な説だが、the neighbouring pool という表現は、ややそぐわない気はする(何の前置きもなく「近くの淵」と書くだろうか)。
いずれにせよ、ここは怯えたネズミが水を撥ねて渡ったという流れから 2章の「涙の池」を踏まえた描写であることは確実なので、少なくとも献呈詩の中の川とは区別して考えるべきだろう。

(最終更新 2016年10月 1日)