「特別科目も、あった?」ちょっと心配そうに、たずねる。
「うん。フランス語と音楽を習った」
「そのあと、せんたくも?」とウミガメ・フーミ。
「習うもんですか!」アリスは、むッとして言った。
「ははあ! それなら、あんたのは、ほんとにいい学校じゃなかったんだよ」すっかり安心した口ぶりだ。「それに引きかえ、ぼくらのとこじゃ、月謝ぶくろのはじに、こうあった。『フランス語、音楽、せんたくにつき別負担』ってね」
(“With extras?”asked the Mock Turtle,a little anxiously.
“Yes,”said Alice:“we learned French and music.”
“And washing?”said the Mock Turtle.
“Certainly not!”said Alice indignantly.
“Ah! Then yours wasn't a really good school,”said the Mock Turtle in a tone of great relief.
“Now,at ours ,they had,at the end of the bill,‘French,music,and washing ― extra.’”)
最初にウミガメ・フーミの言う extras は、それまでの話の流れから 「課外授業」 としか受け取れない。
最後の部分、‘French,music,and washing ― extra.’の extra は 「別勘定」 の意味。
つまり本来は、話が進んで行くうちに言葉の意味がすり替わるという、キャロルお得意のパターン。
ガードナー『詳注アリス』によれば、この 「フランス語、音楽、および洗濯 ― 別途徴収」という但し書きは、全寮制の学校の請求書に、よく見られた。
フランス語、音楽の授業料と、洗濯屋(洗濯婦と考えていいだろう)に頼んだ洗い物の代金は、正規の授業料とは別、という意味。
キャロルは多分 「フランス語、音楽」と 「洗濯」という次元の違う項目を並べた勘定書きを、可笑しなものと感じていて、シャレに利用したのだろう。
最初の extras を 「選択科目」と訳すことも考えてみたが、これだと 「そのあと、せんたくも?」の時点でオチが読めてしまう。
日本語では、拙訳程度のシャレに留めておくのが無難か。
なお、楠本君恵『翻訳の国の「アリス」』(2001.) 163-5頁も参照いただきたい。