「ぜんぜん、みんな、まともな勝負をしないのよ」
(“I don't think they play at all fairly,”)
ここではスポーツはフェアプレイを重んじなければならない、という英国の金科玉条が反転されている。
クロッケーはクリケットではないが、ここは 「フェアじゃない」 「正々堂々としていない」 という慣用句 It's not cricket. を想起させる。
It's [That's] not cricket. という言い回しの由来として、クリケットがラグビー同様 “紳士的なスポーツ” であるという理由以外に、伝説めいた話も残っている。
1622年にイングランドの Boxgrove で、村人が日曜日にクリケットをして起訴された.
罰金を払うのを免れようと村人たちが “ It's not cricket!” ((自分たちがやっていたのは)クリケットじゃない) と言った.
罪を免れようとした彼らの態度がフェアではなかったので、のちに、この表現は今の意味で用いられるようになった. 〔佐藤尚孝編著 『英語イディオム由来辞典』 三省堂、2001.〕
当然ながら英国の小説・映画等にはクリケットのシーンが、よく登場する。
映画 「ナルニア国物語 第 1章 ライオンと魔女」(2005.) でも、クリケットの球が窓ガラスを割ってしまったことが、四人兄弟がそろってナルニア国 に足を踏み入れるきっかけになる (原作には、この設定は無い)。
英国ではピカレスクの古典として知られる怪盗紳士 ラッフルズ もクリケットの選手で、フェアプレイ精神の持ち主 (論創社からシリーズ全短編の翻訳が出ている)。
その作者、E・W・ホーナング 〔Hornung〕 は コナン・ドイルの妹と結婚した人物で、やはりクリケットの名選手だった。
ドイル自身もクリケットが かなり得意で、ドイルにはクリケットを描いた 『その三人 〔Three of Them〕』(1923.) という作品があるほか、
「スペディグの魔球」 (北原尚彦 訳・解説。 西崎憲 と共編の 『陸の海賊』 〈創元推理文庫 ドイル傑作集 4〉 に収録) という短編小説もある。
『ピーター・パン』 の作者、ジェームズ・バリーは、自ら作家仲間のクリケットチームを結成しており、映画 「ネバーランド」(2004.) にはバリーとドイルがクリケットを観戦するワン・シーンがある。