楠山正雄訳(1920.) では、「お前さん 豚といつたのかい、葡萄といつたのかい。」
拙訳 は、直接には岩崎民平訳 (旧〈角川文庫〉) を引き継ぐ。
この「ブドウ」という訳 は田中俊夫(旧〈岩波少年文庫〉) も真似ていたが、それも絶版となったので、名訳を残す意味もある。
もちろん、ここは p を f にすり換えただけだから 「ブタといったのかい、フタといったのかい?」 くらいでかまわないし、こんな箇所でキャロルが頭を使ったとも思えないのだが、fig 「イチジク」 という神話的植物の名を、こういう小ネタの部分で当然のように持ち出す感覚が、この作品を古典たらしめているとは言えそうだ。駄ジャレには違いないが、あまり格調をくずすのも考えもの。
それ以上にまずいのは 「ブタになったんだっけ、それともブスになったの?」 というタイプの訳で、いわば 「類義語」 を選んで簡単にオチをつけようとしている。あらぬ方向へ行くからノンセンスなので、これではまるで方向が逆だ。