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ううんと  。し・ご・12、し・ろく・13、し・ひち……あん、もう! このぶんじゃ、ぜったい20までいけそうにない! でもいいわ、九九なんて、だいじじゃないもの。
( Let me see: four times five is twelve,and four times six is thirteen,and four times seven is ― oh dear! I shall never get to twenty at that rate! However,the Multiplication Table doesn't signify)

なぜアリスは20までたどり着けないのか、という問題について、ガードナーの注釈 (あるいは各翻訳書のガードナーに依拠する注) を知って、そうだったのかと得心した読者は多いだろう。
すなわち英米の乗算表 〔Multiplication Table〕 は日本の九九と違い、伝統的に×12まであるが、
 4×5=12、4×6=13、4×7=14……なら、4×12=19となり、20に達することがない。

解ってみると、9章末の 「時間割」 の問題同様に、簡単な子ども向けの算数のようだが、英語圏の読者なら誰でもこのパズルに気づくというものでもない (現にロジャー・ランスリン・グリーンはオックスフォード版注釈に、上の説明をガードナー 『詳注アリス』 (初版1960.) から引用して紹介している。かつてキャロル研究の第一人者であったロジャー・グリーンでさえ、自身では気づかなかったということだろう)。
この算数パズルが発見されにくい理由のひとつに 「乗算表」 は伝統的に日本の 「九九」 ほど親しまれて来なかったことがあるかも知れない。九九は日本語の音韻にマッチしていて、誰でも幼少期に通過するという意味で、実利的ナーサリー・ライムとでも呼ぶべきものだ。


だが数学者であるガードナーは、同時に 『詳注アリス』 で A.L.テイラー〔Taylor〕 の もっと込みいった説をフォローするのも忘れなかった。

 4×  5(=20)が12であるためには18進法を使えばよい 〔18×1+2〕
 4×  6(=24)が13であるためには21進法 〔21×1+3〕
 4×  7(=28)を 14 とするなら、 24進法 〔24×1+4〕
 4×  8(=32)を 15 とするなら、 27進法
 4×  9(=36)を 16 とするなら、 30進法
 4×10(=40)を 17 とするなら、 33進法
 4×11(=44)を 18 とするなら、 36進法
 4×12(=48)を 19 とするなら、 39進法
 ところが、この図式は42進法で崩れ、
 4×13(=52)は 20 にならない
つまり 42進法では、上の位が1のまま、その下の位が十進法で言う “10” になってしまうのだ。こうした場合、“10” を例えば A のような記号で置き換え、1A などと表記するわけだが、どんな記号を採用しようと 「20」 にならないのは確か。
『詳注アリス』 には石川澄子の訳があるが、数学に不案内なため、この部分は誤解している。
ともあれ、キャロルの好んだ数字 「42」 が鍵を握っている点で、キャロリアンには魅力がある説と言えよう。

『決定版 注釈アリス』 では、さらに別の解釈があることも紹介している。
《Historia Mathematica》 3号(1976.)、183-4頁、Francine Abeles の “Multiplication in Changing Bases : A Note on Lewis Carroll” という論文。 ガードナーは文献として示しているだけで、筆者(小生) も未見のためコメントしえない。
もちろん一方で、この部分が数学パズルと全く関係ないという解釈も成り立たないわけではない。
すなわち、4×5 の段階で当然 20 となるべきなのに、計算がそれとはかけ離れている、というだけの意味にもとれる。
しかし、キャロル得意のパズルの性格から考えると、ここはむしろ、20 となるべき 4×5 からはじめて、20 に到達しないためにはどういう論理を用いればよいか、という円環的な問題設定と捉えるのが順当だろう。