ああ、神も仏も、手も足も、毛皮もヒゲもあるものか! 夫人に処刑されるのは、まちがいなしだ。イタチがイタチで、なくなることでもないかぎり!
(Oh my dear paws! Oh my fur and whiskers! She'll get me executed as sure as ferrets are ferrets!)
as sure as ferrets are ferrets「イタチがイタチであるのと同じくらい確か」とは「火を見るより明らか」というくらいの成句で、キャロルの時代にはよく使われていたという。
白イタチ〔ferret〕はネズミ退治やウサギ狩りのために飼われた英国産のケナガイタチ〔polecat〕で、当然これは白ウサギの「死刑」を連想させる。
my dear paws!に、fur and whiskersという表現も、身体分離的モチーフだ。
訳文では、それとなく読者に感じ取ってもらえるように配慮した。
翻訳技法的には、こういう場合、否定的言い回しを用いると日本語として比較的無理なく収まるように思う。
余談だが、このイタチにはファンも多いようだ。
ガードナーは『決定版 注釈アリス』でferret について、次のようなアリスとは全く関係のない情報を付加している。
1万匹のイタチがいたと言われるニューヨーク市では、1匹のイタチを飼うことが保険衛生法〔health code〕違反だった。1983年9月18日、AP(連合通信)の記事は、市の禁止令を解くことを要求する「ニューヨーク市イタチ友の会」の結成を伝えた。友の会スポークスマンは、イタチについて「愛情をそそぎ込めば(……)自分の名前も覚えるし、芸もする」と熱弁。先の夏、セントラル・パークでは連日「イタチ祭」が開かれ、200人のひとと75匹のイタチが参加した。
さらに1995年6月25日の《The New York Times》は、もっぱらイタチを持ちあげることに紙面を割くヴィジュアル誌《Modern Ferret》の創刊を伝えた、という。
現在「フェレット」と言えば、ほぼペット化された改良種を指し、日本にも多くのマニアックなフェレット・サイトが存在する(→参考サイト『FERRET SHOP』)。