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里吉しげみの文章は、日本に於けるアリス受容史の中でも、最も奇抜にアレンジされたもののひとつで、はすっぱなアリスの口調は北村太郎訳(1987.)などに先行している。
現在では入手困難な本なので、以下ランダムに特徴的な部分を引用すると、 “DRINK ME”の部分は、 the Cheshire-Catは、ここでは単に“ねこ”を自称する。 猫の鳴き声が変な理由は、“ペンキやさん”の「この くにじゃよ、じょおうさまが いぬは ニャン ニャンと おっしゃったら、くにじゅうの いぬは、ニャン ニャンと なくの」という台詞から、女王の専横によるものと解るが、ここまで来れば、むしろ安易な筋立てなどないほうが良かったろう。
この本では猫の登場に続いて、the Caterpillarの登場シーンとなるが、
しかし宇野亜喜良のイラストには、別に“毛”は生えてない(イラストに関して言えば、宇野が描いた数々のアリスの内では、筆がのびのびと運ばれていて、評価のできるものだ。前半、アリスが帽子をかぶっているのも珍しい)。
お茶会に“けむし”や白ウサギが出席している(白ウサギと三月ウサギの区別がない)ことなども、今さら不思議ではないが、ひらがな絵本でも、ここまで大胆に改変を加えたものは少ない。
ラスト、現実世界に戻ったアリスは、ポケットに入っていたトランプをしまいながら、次のように歌う。 この歌をエンディングに大団円となること自体、常人の発想ではない。
他に、印象的な挿入歌として、女王の〈チョチョンぎれおんど〉がある。

さすがは精神世界系の刊行物も多いサンマーク出版の本だ (あまりに別格なのでアリスの珍訳奇訳を扱った拙著『Alice in Trash Basket』でも、この本だけは紹介できなかった)。
この絵本を読み、レコードを聴いた子どもが、すくすく豊かな心に育ってくれることを願う …といっても、これをリアル・タイムで読んだ子どもは今、30才くらいか。
シリーズ監修 山下俊郎(日本保育学会会長・文学博士)。
編集委員 服部公一(作曲家)、小林純一(日本童謡協会理事長・日本児童文学者協会評議員)、山内昭道(東京家政大学教授・亀戸幼稚園園長)。