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「だからかの? そこにあるのは」王さまは、とくいげに、テーブルの上のタルトを指した。
(“Why,there they are?”said the King triumphantly,pointing to the tarts on the table.)

ここは、M.ハンチャー『アリスとテニエル』が指摘するように、マクミラン版原典では“Why,there they are?”の台詞と、テニエルのイラストが符合するよう配置されている。
が、マクミラン初版の段階では原文は“Why,there they are!”と感嘆符が使われていて、いくぶんニュアンスが異なっていた。
この改変の理由について私見を述べさせてもらうなら、もともとキャロルは強い調子のセリフを考えていたのだが、テニエルがむしろ穏やかな表情の王の肖像を描いてしまったため、そのイメージに合わせて文章のほうを微修正したのではなかろうか。

拙訳でも当初、王の台詞を「だからじゃな、そこにあるのは!」と初版形をもとに訳していた。語調を弱くすると、続くtriumphantly「勝ちほこって」という副詞と、齟齬を来す気がしたからだが、『新「アリス」訳解』では英文も訳も原典の最終形(1897年の第9版以降のもの)に合わせることを方針とするので、ここも改訂した。


オハイオ大学〈Kids' Corner〉−「不思議の国」−「12章」の朗読では、初版形に合わせてあることもあって、王の台詞は劇的に強い調子。