まっすぐトンネルみたいに横にのびてたのは、
( went straight on like a tunnel )
高山宏は『テクスト世紀末』(ポーラ文化研究所、1992.)で、「トンネル」の文化史的意味を探究し、地下への時代的関心が『不思議の国』などの文学を生むきっかけになったと考えている。
問題は地下である。舟運推進のため運河を掘るうち、英国のトンネル掘進のノウハウが蓄積されていたが、なんと言っても天才的技術者、M・I・ブルネル考案のシールド工法の登場が決定的であった。〔中略〕一八二五年に構想されたテムズ河底トンネルは四二年に完成、翌年から供用に付されている。この歴史的大工事に対してブルネル(父)は一八四一年、ナイト位を叙せられた。
〔中略〕 こうして、地下鉄の時刻表にかかわる一篇をさえ含むホームズ・シリーズが、一八八四年のロンドン地下鉄の循環線(インナー・サークル)完成とからみあっているように、一八六五年のアリスの冥府降下物語はブルネル・ショックの余波なのである。
その前後の文学史はちょっと奇異かつスリリングだ。六二年にはパリの地下文学の王、ヴィクトル・ユゴーの『ああ無情(レ・ミゼラーブル)』が、六四年にはドストエフスキーの『地下生活者の手記』が出ている。あいだの六三年に世界初の地下鉄運用、というわけ。
同じ六四年にジュール・ヴェルヌのきわめつけ地底文学、『地底旅行(地球中心への旅)』が出ている。ダイナマイトの発明(六六)をはさんで、大切りは「災害派(カタストロフイスト)」という有難くない綽名(あだな)を頂戴するまでに売れに売れまくったブルワ=リットン卿の名作『ポンペイ最後の日』。
〔213-4頁。『アリスに驚け アリス狩りY』(青土社、2020.)65-6、69頁にも引用されている〕
(最終更新 2020年11月23日)