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アヒルやドードー鳥、オウムにワシの子もいて、ほかにも めずらしい生きものが数匹。
( there were a Duck and a Dodo,a Lory and an Eaglet,and several other curious creatures. )



Alice, Lory, Eaglet and Dodo 『THE NURSERY “ALICE” 子ども部屋のアリス』 4章では、以下のよう
に、テニエルのイラストに合わせて語っている。
  When Alice and the Mouse had got out of the Pool of Tears, of
course they were very wet : and so were a lot of other curious
creatures,that had tumbled in as well. There was a Dodo (that's the
great bird,in front,leaning on a walking-stick); and a Duck ; and a
Lory(that's just behind the Duck, looking over its head) ; and an
Eaglet(that's on the left-hand side of the Lory); and several others.

「アリスもネズミも、涙の池からあがったときは、もちろんずぶぬれ   
に落ちた、ほかのたくさんの動物たちも、おんなじだった。 ドードーがいるね
(手前で、杖をついている、大きな鳥だ)。   アヒルもいる。    それに、
オウムも(アヒルの真うしろ、その頭越しに見えてるね)、   ワシの子も
(オウムの左手にいるだろ)、   ほかにも、もっと いるね。」

ここには、1862年 6月17日のピクニックに出かけたメンバーが匿名で登場
している。
Duck はキャロルの友人でオックスフォードの同僚、トリニティ・カレッジにい
たダックワース 〔Robinson Duckworth〕。
Dodo はキャロルの本名 ドドスン 〔Dodgson〕 から。

Lory は Alice の姉、ロリーナ・リドル 〔Lorina Liddell〕。
次章冒頭、アリスとオウムのやり取りは、オウムの正体が Alice の姉であ
ることを知っていれば、ノンセンスではなくなる (楽屋オチとは言え、有名
なエピソードなので、オウムを男性とするような翻訳には違和感がないでも
ない。 テニエルのイラストは、男女いずれとも受け取れる)。
Eaglet は Alice の妹、イーディス 〔Edith Liddell〕 だ。 → 口絵も参照

他に、キャロルの叔母ルーシー 〔Lucy Lutwidge(1805-80.)〕、姉のファニー 〔Frances(1828-1903.) 愛称 Fannie〕と エリザベス 〔Elizabeth(1830-
1916.)〕 が ピクニックに参加した。 彼女らが “めずらしい生きもの” というわけだ。
なお、家庭教師 プリケットは舟遊びに参加していない。


ドードーについては Web上では 『ドードーの絶滅』 が詳しいが、現在では情報がやや古びている。

ガードナー、ロジャー・グリーンほかの主要な注釈は、キャロルが Dodo である根拠を、吃音に求めている。
すなわち、本名の Dodgson を、吃って Do-do-Dodgson と発音することがあったせい、というのだが、このよく知られた説明も、無批判に信じることはできない。
ガードナーもグリーンも記すように、キャロルがダックワースに送った 『地下の国のアリス』 のファクシミリ版(1886.)には “The Duck from the Dodo” と書き込まれており、Dodo が Dodgson のシャレであること自体は確実だ。
しかし、笠井勝子教授は大学の紀要で、子どもたちが Do-do-Dodgson などと吃りをまねて、からかうようなことがあれば、無作法な子どもを嫌悪したキャロルは許さなかったろうとして、早くから吃音説の典拠に疑義を呈していた。
この吃音が どの程度のものだったかについては、エドワード・ウェイクリングの講演 「The Real Lewis Carroll」 の、キャロルに関する誤った 「神話」 リストの 1. 内気で引っ込み思案な性質の持ち主で非社交的だったという、必ずといっていいほど使われる性格描写について反駁した部分を参照してほしい。
木下信一氏によれば、A.S.Carpenter のキャロル伝『Lewis Carroll Through the Looking-Glass』にも、キャロルの障害は「正確には吃音というものではなかった。雑音を立てず、単に口を開けるだけだったのだから。ただ、間があった。見ているものからしたら、とても神経質な間だった」という同時代人の証言が載っており、Do-do-Dodgson のような発声はしなかったらしい(吃音の症状としては「連発」ではなく「難発」だったということだろう)。
また、キャロルの一族において Dodgson の g は発音しないので、Dodgson から Dodo を連想するのに吃音を介する必要はない。

「キャロル=少女愛者」 説に付随して、しばしば 「大人に対しては吃ってしまい、まともにしゃべれなかったが、子どもに対してなら、すらすらしゃべれた」 というたぐいの神話が語られる。
が、この言語障害から、社会人としての交際に支障を来たすことは無かったし、一方では、Alice の回想にもキャロルが物語るとき吃音があったというから、子どもの前なら吃らなかったというのも誇張だ。
「子どもたちの前では吃らなかった」 というのは、要するにリラックスしているときや、興に乗って しゃべっているときは吃らなかった、という程度の意味に取るべきだろう。

ドードーがキャロル自身のカリカチュアであることは疑いないが、各種の注釈では、空を飛べない鳥で、動作ものろく絶滅した、と自虐的なイメージばかりが強調される。 しかし、『子ども部屋のアリス』 でのキャロルはドードーについて    who was a very wise bird    「とても賢い鳥だった」 と自賛している。

by Roelant Savery もっとも、ドードーは その名前からして「のろま」の意味があるとするのが一般的で、例えば絵本『世界の絶滅動物 いなくなった生き物たち Bアフリカ・オセアニア』(汐文社、2015.)には次のようにある。

川端裕人『ドードーをめぐる堂々めぐり』(岩波書店、2021.)では、この語源説について、こう説明する。
by Jan Savery テニエルは、ルドルフ 2世の宮廷画家、ルーラント・サフェリー〔Roelant Savery, 1576-1639.〕の描いた、いわゆる「ジョージ・エドワーズのドードー」を参照したと思われ、現在 学術的に考えられているよりは太った滑稽な姿でドードーを作画した。 これは鳥類学者エドワーズ〔George Edwards, 1694-1773.〕が所蔵したのち、ロンドン自然史博物館の所有になっているもの(上図)。 なお、キャロルとアリスが見たオックスフォード所蔵のドードーの絵は、ルーラントの甥に当たるヤン・サフェリー〔Jan Savery, 1589-1654.〕が、1651年に伯父の絵を参考に描いた作品(下図)とされている(川端、前掲書では 3-6、124-5、144頁に記事)。

(最終更新 2021年12月11日)