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「まあ、なつかしいおじょうちゃん、またお目にかかれて、あたくしがどんなにうれしいか、あなたにわかるかしら!」そう言って公爵夫人は、親しげにアリスの腕を取り、ふたりはいっしょに歩きだした。
 アリスは、夫人がごきげんだから、すっかりうれしくなって、さっき台所であったとき、あんなに乱暴だったのは、単にコショウのせいだったんだと思った。
(“YOU ca'n't think how glad I am to see you again,you dear old thing!”said the Duchess,as she tucked her arm affectionately into Alice's,and they walked off together.
 Alice was very glad to find her in such a pleasant temper,and thought to herself that perhaps it was only the pepper that had made her so savage when they met in the kitchen. )


Flamingo-Duchess
tuck は、「差し込む」 あるいは 「くるみ込む」。
拙訳は既訳同様、ここを 「アリスと腕を組み」 としていたが、改訳した。
他に多いのは公爵夫人が 「腕をからめて来た」 というタイプの訳で、悪く
ないが、肘から手首までが極端に短いテニエルの絵には、やや合わない
か。 見た目には、アリスの腕をつかんで 引いている印象。


チェシャ猫の笑顔も、耳と耳とをつなぐような大きな口が特徴だったが、
テニエルのイラストを見ると、公爵夫人の口は、さらに大きい。

 And just look at her smile!  Why,it's wider than all Alice's head :
 and yet you can only see half of it!
(夫人のにっこりわらっている顔を見てごらんなさい。口がアリスの頭より
大きいですね。しかも、見えているのは、口の半分だけなんですからね。
                   〔高橋康也・迪 訳 『子供部屋のアリス』〕)

“醜い公爵夫人”のモデルと信じられていた女性が、ドイツ語でMaultasche(マウルタッシェ)
「口の大きな人」 という異名を持っていたことから、テニエルが こういう造形
を思いついたと考えられる。
高山宏の注釈では、英語の pocket-mouthed を直訳 した“巾着口” となっ
ており、伝マサイスの原画には似合っている訳のようだが、 いずれにしても、
Maultasche は本来 は 「平手打ち」 くらいの意味で、 政治的な含みを持つ
仇名であり、実在した公爵夫人の容姿とは関係が無いようだ。