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でもそのウサギが、なんと時計をチョッキのポケットから取りだして、しばし見つめて、あわててかけてったのには、
(but,when the Rabbit actually took a watch out of its waistcoat-pocket,and looked at it,and then hurried on,)

watch はこの場合「懐中時計」。腕時計が使われるようになるのは20世紀に入ってからである。


松浦寿輝(ひさき)は、東大での最終講義 「Murdering the Time――時間と近代」 〔2012.4.26.→《新潮》2012.7.号→『波打ち際に生きる』羽鳥書店、2013.〕 において、白ウサギを、 分秒刻みの時間に急き立てられ、間に合わずに遅刻するといった強迫観念に拘束される「近代的な時間システム」の順応者とする。
『鏡の国のアリス』 2章でも赤の王妃が懐中時計を見てアリスを急かすが、白ウサギは時間 に支配される側、赤の王妃はいわば時間を支配する側という違いはあるものの、 どちらも時間通りに何かを行うといったパンクチュアリティ〔punctuality〕の倫理を遵守する、同じ近代システムの遂行者である、という。
松浦は、これら2つの時計と、『不思議の国』7章に登場する帽子屋の時計を対照的なものとして論じている。

(最終更新 2013年8月12日)