12章冒頭、アリスが陪審席を引っくり返してしまった場面のイラストに、
12名の陪審員が描きこまれている。『子ども部屋のアリス』 (この本の章立てでは 13章末) で、キャロルは
次のように、幼い読者に呼びかけた。You know there ought to be twelve to make up a Jury. I can see
the Frog,and the Dormouse,and the Rat and the Ferret,and the
Hedgehog,and the Lizard,and the Bantam-Cock,and the Mole,
and the Duck,and the Squirrel,and a screaming bird,with a long
beak,just behind the Mole.
But that only makes eleven : we must find one more creature.
Oh,do you see a little white head,coming out behind the Mole,
and just under the Duck's beak? That makes up the twelve.
Mr. Tenniel says the screaming bird is a Storkling (of course
you know what that is?) and the little white head is a Mouseling .
Isn't it a little darling .「陪審員は12名、いなくちゃいけないってことは知ってるだろ。 ほら、
-ling は接尾辞。名詞につけて指小辞を作る。
カエルに、ヤマネが いるよ。 ドブネズミ に イタチ 、ハリネズミ と、
トカゲと、チャボと、モグラと、アヒルと、リス。それにモグラのうしろに、
長いクチバシをあけて鳴いている鳥がいる。
でも、まだ11名にしかならない。 もう 1名、さがし出さなくちゃ。
あっ、ほら、そのモグラのうしろの、ちょうどアヒルのクチバシの下に、
小さな白い頭が出てるの、わかるかな? これで、12名になった。
テニエルさんが言うには、鳴いてる鳥はコウノトリの子で (もちろん、
コウノトリのことは知ってるね?)、
小さな白い頭はハツカネズミの子
なんだって。 かわいい子だよね。」
gosling で 「ガチョウのヒナ」。 ugly duckling は 「醜いアヒルの子」。
darling 「愛しい人(もの)、可愛い子」と韻を踏んだ形。
ここでキャロルが想定しているのは、ふつうに考えて、赤ん坊を運んでくるという伝承のある コウノトリ (white stork)だろう。
ドイツを中心とした北部ヨーロッパの俗信だが、このころは童話を通して、英国でも広く知られていたと思われる。
しかし、ヒナだから羽毛が黒いという性質でもないので (コウノトリ目のトキの幼鳥は褐色だが)、テニエルが描いたのは、クロコウノトリ
(和名ナベコウ black stork) の若鳥 ではないかと考えられる (私見。ご意見があれば連絡下さい)。