| Home|

こんどこそ、まちがえようがない   。 まさしく、まぎれもないブタだったから、アリスはこれ以上、こんなものを抱いてくのは、ばかばかしいと思った。
(This time there could be no mistake about it: it was neither more nor less than a pig,and she felt that it would be quite absurd for her to carry it any further. )

Pig-baby
「キャロル=少女愛者」 説に付随して、キャロルは少年を忌み嫌い、男の子をブタに変えてしまった、と しばしば指摘される (典拠となったのは、大体においてガードナーの注釈だろう)。
だが、それなら 5章末で、少女をヘビとしていることにも説明をつけてもらいたい。

男の子はブタで、女の子がヘビ    これはキャロル独自のアイデアでなく、誰でも思いつくタイプの、ありがちな比喩に過ぎないだろう。

ここでキャロルは、“チェシャ猫のごとく笑う”チェシャ猫を生み出したのと同様に、正真正銘の “豚児” を実体化して見せたのである。

キャロルが少年に悪意を持ったという説は、ジャン・ガッテニョ の『ルイス・キャロル』(原著 1970.)、および 『ルイス・キャロル Alice から Zénon まで』(1974.) によって信じられるに至った。
しかし、実は少年を嫌ったわけではない (もちろん、少女より好きだったわけでもない) ことは、 エドワード・ウェイクリング 『ルイス・キャロルの実像』〔Edward Wakeling“LEWIS CARROLL:The Man and His Circle”2015.〕 9章を参照して欲しい。 邦訳は楠本君恵・高屋一成・下笠徳次 監訳(小鳥遊書房、2020.)、該当箇所は楠本訳。
一部引用すると、

ひと言 付け加えておくなら、少女のヌード写真を撮っていたキャロルをペドファイルと見る人は、少年に対してはヌードを撮ろうとしなかったとして性的意図があったことの証左としたりするが、事実に反している。

イラストの背景に描かれた花は キツネノテブクロ で、これはおそらくテニエルが 『不思議の国』 の珍奇な現象 (ここでは赤ん坊からブタへの変身) を、妖精譚と重ね合わせて見ていたことを意味する

(最終更新 2020年 4月 5日)