クッキー(very small cake)
たぶん、currants(カランツ。カラント。 カレンズ、を訳語とする場合もある。 干しブドウ、あるいはスグリの実)を beautifully 「きれいに」並べるのに都合がよいことから、このcakeは“クッキー”のような平面的なお菓子として描いた挿絵が多い。
シュワンクマイエルの実写アニメーション「Alice」でも実物の“クッキー”が使われていた。
ふつうの“ケーキ”として描かれることもあるが、currants を入れるという意味で rock cake、もしくは scone(スコーン)である可能性が高い。
拙訳では「クッキー」を採用したが、cookie,cooky というのはアメリカ英語で、英国ではこの単語をほとんど使わない。
英国で“クッキー”に当たるものは biscuit (逆に米国で biscuit と言えば“柔らかい菓子パン”を指し、これは英国の scone に当たる)。
本来、クッキーとビスケットに明確な区別はないが、日本では糖分・脂肪分の合計が40%以上で、形が手作り風のビスケットを“クッキー”と呼んでよい(「チョコレート、ビスケットの表示に関する公正競争規約」1971.)
と定めているため、日本国内では“クッキー”という語に独特のイメージがある。
当初、拙訳では原形を一部残し、“小さなクッキー”としていたが、印象が小さくなりすぎるので“小さな”は省くことにした。
ジョン・フィッシャー『アリスの国の不思議なお料理』の“「お食べなさい」ケーキ”は、
“ビスケット”をくだいて生地に混ぜこみ、ケーキカップに入れて冷蔵庫でひやしただけ。
ロック・ケーキは、英国では伝統的で親しみのある茶菓子だ。
例えば『アガサ・クリスティー自伝』には、クリスティーの幼少期(つまりヴィクトリア朝末期)の次のような情景が描かれている。
台所のお茶の時間はしばしば親睦会になった。 〔中略〕
熱いロックケーキが いく盆もオーブンから出された。
わたしはあのころ以来、ジェーン〔料理人の名〕がこしらえてくれたロックケーキのようないい味のものを味わったことがない。
かりかりしていて乾ブドウがいっぱい、熱いうちに食べれば最高。 〔第一部III 乾信一郎訳〕
J.K.ローリング『ハリー・ポッターと賢者の石 〔Harry Potter and the Pilosopher's Stone〕』第8章で、主人公ハリーとその友人ロンが、森のはずれに住む野人ハグリッドの小屋にお茶に招かれたとき、供されたのもロック・ケーキだった。
ハグリッドは大きなティーポットに熱いお湯を注ぎ、ロックケーキを皿に乗せた。 〔中略〕
ロックケーキは歯が折れるくらい固かったけれど、二人ともおいしそうなふりをして、初めての授業についてハグリッドに話して聞かせた。 〔松岡佑子訳。静山社、1999〕
通常は、表面がパリパリしているだけである。