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原典の最終形と行数を合わせることで(49行)、かなりネズミの尾らしい形にすることができたと思う。キャロルが非常に こだわっていた詩形を、邦訳は最近のものでも案外ぞんざいに処理している。そもそも、まるで「長い話」に見えないことが多い。
拙訳もブラウザ、ディスプレイによっては多少、詩形がくずれて表示されるかも知れないが。
つまり、ここで拙訳は「詩形」を第一に考えて訳したわけだが、もちろん原詩は脚韻も踏んでいる。のみならず韻の踏み方にも、ふつう読者が気づくとも思えない工夫の凝らされていることが1989年、2人のティーンエイジャー(New York,Pennington School の、Gary Graham と Jeffrey Maiden)によって「発見」された。 Web上では木下信一氏のサイト『The Rabbit Hole』内の「キャロルに関する雑学帖」−「ネズミの尾話」に紹介がある。 ちょっとした思いつきに過ぎないようだが、この説はガードナー『決定版 注釈アリス』に採用され、それなりに認知されている。 この話を報じた《The New York Times》の記事タイトルは“Tail in Tail(s):A Study Worthy of Alice's Friends”〔「しっぽの中のしっぽ  アリスの友というに ふさわしい研究」〕。
ここまで来ると、さすがにキャロルの意図だとしても二義的な遊びだろうから、翻訳に生かすことは困難だし、本当はふつうに1連4行の詩で、各連の1・2行、および1・2連、3・4連の最終行で韻を踏んだだけかも知れない。
「キャロル的」な言語遊戯に ひたれるかは読者次第でもあるが、こういうタイプの「新発見」なら日本の学生やアマチュア読者にも十分可能だろう。

追記。 河合祥一郎訳(2010.)では、この言語遊戯を押さえて脚韻を踏んだ。


なお、この項冒頭で当初、原典の最終形を「第 8 版(1891.)以降のもの」と注記していたが、木下氏の指摘により、最終形は1897年の第 9 版とわかった。 このエラーは『アリスの英語』および『不思議の国の“アリス” ―ルイス・キャロルとふたりのアリス―』(求龍堂、1991.) 両書の記述に従ったものだが、訳者(大西小生)自身が確認を怠ったためのミスであり、読者にお詫びしたい。

この原典の版の変遷については、やはり木下氏のサイト内の「『不思議の国のアリス』版の変遷」に手際よくポイントが解説されている(ネズミの尾話の詩形については「図4」を参照)。


go to law「法に訴える」は prosecute「起訴する」と、ほぼ同義。もっとも、前後の関係から、lawを「警察」くらいの意味に取る訳も多い。
「出るとこ出よう」は我ながら名訳と思っていたのだが、すでに楠悦郎(1987.)が「出るところに出よう」という形で用いていた。

no jury or judgeは当初「判事もいない、陪審も なし」と原文に近い形で訳していたが、「裁判員法案」の閣議決定(2004.3.)を受け、11・12章のjuryを「裁判員」と改訳することにしたため、語呂の関係で、裁判員とすべきところを、とりあえず「弁護士」に置き換えた。 現時点では、弁護士のほうが裁判員よりなじみのある言葉だからでもある(先例としては芹生一訳が、弁護士を使っている)。

詩の最後尾を原文の death に合わせて「死刑」で終える工夫は、吉田映子訳(『笑いのコーラス』、1992.)に倣った。
追記。 高山宏新訳(2015.)も最後尾を「死刑」で終えている。

(最終更新 2015年 5月17日)