加藤まさを は、すでに大正期、倉橋惣三監修の 「アリス物語」(『幼児に聞かせるお話』 所収) にも、アリスを描いている。30年前のことだ。昭和29年の 大木雄二 による 「ふしぎの国」 のリライト。 画像提供・木下信一氏。
農協(JA)系の雑誌 《家の光》 の付録の小冊子 に掲載されたもの。雑誌のサイズはA 5版。
《こども家の光》 は 頁数の少ない中綴じ冊子で
中央の見開きに毎号、有名童話のリライトを連載 していた。
「ふしぎの国」 の連載は全 3回だが、作家も画家も、作品ごとに交替している。
樹上のチェシャ猫が 「はっはっは。」 と笑っているが、これは同じ年に出版された
浜田広介版 『ふしぎのくにのアリス』(〈小学館の幼年文庫〉)
で、やはり猫が 「あっはは、 にゃあ、 あっはは、 にゃあ。」 と特異な笑い声を残すことに影響を与えているかも知れない。
大木雄二と浜田広介には交流があった。
大木もまた、大正期から児童雑誌の編集者・童話作家として活躍していたが、昭和25年、当時ふつうには、まだ存在しなかったと言える長篇
の幼年童話 『くろすけ・あかすけ』 を刊行するなど、第二次大戦後も精力的に活動していた。
帽子屋の 帽子の値段 は “100まんえん” と、非現実的な額 になっている。
すでに戦後のハイパーインフレは収束していたが、高度成長期 に差しかかろうという時期で、物価は高騰していた。
“ぼうや” と誤植しているのは、おそらく童話に出てくるのは 「坊や」 だという思い込みからで、帽子屋が登場するなどというファッショナブルな感覚は、
一般庶民 に馴染まなかった (まして農協系の雑誌である)。
こうした校正ミスからも、当時の 「アリス」 のキャラクターの普及度を推し量ることができよう。