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「きれいなカップがほしいな」ぼうし屋が、横から口をはさむ。「みんな、ひとつずつ、席をずらそうや」
 言いながら、ぼうし屋が席をうつると、ヤマネがあとにすわり、   三月ウサギは、ヤマネのいた席にうつり、そしてアリスは、しぶしぶながら三月ウサギのいた席にすわる。席がえで、いくらか得をしたのは、ぼうし屋ぐらいで、   アリスはずいぶん損をした。 三月ウサギが、ミルク入れを、お皿にひっくり返したばっかりだったんだ。
( “I want a clean cup,” interrupted the Hatter: “let's all move one place on.”
 He moved on as he spoke,and the Dormouse followed him: the March Hare moved into the Dormouse's place,and Alice rather unwillingly took the place of the March Hare. The Hatter was the only one who got any advantage from the change; and Alice was a good deal worse off than before,as the March Hare had just upset the milk-jug into his plate. )

The Mad Tea-Party



 
 『THE NURSERY “ALICE” 子ども部屋のアリス』 では、キャロルが
テニエルのイラストに、細かな解説を加えている。

  That's the March Hare, with the long ears, and straws mixed up
with his hair. The straws showed he was mad ― I don't know why.
 「 そら、長い耳をして、麦ワラが髪の毛も同様になってるのが、三月
ウサギだ。 麦ワラは、頭がおかしいってことを示してるのさ。……ど
うしてなんだか知らないけど。」

狂気を意味する藁 は、中世以来の版画に、伝統的に見られる。
テニエルも漫画雑誌 《Punch》で この藁を しばしば用いていた(『リア
王』 の戯画 にも描かれている。 M.ハンチャー (石毛雅章訳) 『アリス
とテニエル』(東京図書、1997.) 第 5章(81-96頁) を参照のこと )。
シェイクスピア劇でも実際に藁の冠が かぶられていた可能性が高い。

当時は、麦藁を王冠と信じて頭上に載せる、といった風刺的な (つまり
「裸の王様」 と同様な)意味で、政治家や権力者、作家の頭上に藁の
冠を かぶせることが多かった。



「 〔……〕 アリスが、どこから バター・トーストを とってこれたんだか、
まるでわからない。   パンをのせる お皿も無いし。 ぼうし屋のほかに
は、だれも お皿を もってないみたいだ。 三月ウサギも、1枚 もってたの
は、たしかなはずだけどね。     というのも、みんなが席を、ひとつずつ
ずらして (そうするのが、この、おかしな お茶会の決まりなんだ)、 三月
ウサギのいた席に アリスがついてみたら、三月ウサギが ミルク入れを、
お皿へ ひっくり返した ばっかりだったからだ。 となれば、たぶんウサギの
お皿と ミルク入れは、あの大きなティー・ポットのうしろに隠されてるんだ
ろうね。」