背景のドームは、オックスフォード大学植物園 〔 University of Oxford 壁のように佇立するトランプの字札。
ハートの王と王妃以外に、王族の面々も居並ぶ。
その背後に、足と茶色の上着を のぞかせる白ウサギ。
アリスの足元には、三人の庭師が、ぺたりと平伏して、背中の模様
ガードナーは 『決定版 注釈アリス』 で、『子ども部屋のアリス』 での
王妃の顔色は bright red だと指摘しているが、 scarlet 「緋色」 に近
い crimson red 「深紅色」 に塗られている。
岩崎民平は turned crimson with fury を “ turned red with anger に
輪をかけた猛烈な怒りかた”と注釈しているが、
赤らんだ顔を crimson
と表現すること自体は一般的。
12章末での王妃の顔色は turning purple 、となる。
この場面のイラストは、絵解きの愉しみに充ちている。
Botanic Garden〕の温室だろうと推測される (実際の形状 は、イラスト
に描かれたものとは異なる*)。
1章で語られた噴水の形も、ここで明らかになる。
酒呑みを思わせる 赤鼻のジャック は、 a crimson velvet cushion
「深紅のビロードのクッション」 に王冠を載せて捧げ持つ。
を見せている。
しかし、ヴィクトリア期に流布したヴィジュアル・イメージを精査したはずのハンチャーも、イラストの背景にあるような完全な半球形の温室は知らない、と書いている (108-10頁)。
あるいは、このドームは、万国博で水晶宮を建設することになるジョゼフ・パクストン〔Joseph Paxton(1803-1865.)〕が、
1836-40年に製作した チャッツワス〔Chatsworth〕の大温室 を参考にしたのかも知れない。
邦語文献では、松村昌家 『水晶宮物語 ロンドン万国博覧会 1851』(リブロポート、1986.→〈ちくま学芸文庫〉2000.) を参照。J.B.バニング設計の 「石炭取引所」(1847.) も参考になる (図40。文庫版 124-5頁)。