序、平成期日本のアニメにおけるアリス・モチーフ作品 補遺 私は令和元年の《MISCHMASCH》21号(2019.11.)に、平成期のアリス・アニメについて、ある程度の総括をしてみたつもりだが、これは遺漏も多かった。その冒頭で昭和期のアニメの代表格として「まんが世界昔ばなし」114話「不思議の国のアリス」(1977.12.)と日本アニメーション(会社名)制作の「ふしぎの国のアリス」(1983.10.-1984.3.)の名を挙げていたが、平成期にも同様の作がTV放映されていたことは木下信一氏のFacebookを見て初めて知った。「コーセーファンタジーランド 世界名作童話シリーズ ワーォ!メルヘン王国」の14話「L.キャロル原作 ふしぎの国のアリス」(1995.7.)がそれで、フジテレビ系列の30分番組(スポンサーは化粧品のコーセー)。DVDでは「世界名作昔ばなし」と題されている。アリスは金髪碧眼に、青紫のカチューシャ風リボン(腰のリボンと靴も同色)。ピンクの服の上に白のワンピースエプロンを着ている。声優は笠原留美。以下、白ウサギ 島田敏、公爵夫人 江森浩子、チェシャ猫 田中一成、三月ウサギ 中原茂、帽子屋 龍田直樹、女王 小宮和枝、王様 佐藤正治、グリフォン 平田広明、とヴェテラン勢が揃う。芋虫と植木屋、ニセ海亀、ハートのジャックにもセリフがあるがED(エンディング)の「声の出演」には明かされてない。ナレーション小山茉美。涙の池(アリスは「海」と呼ぶ)の描写はあるがネズミなどは登場せずコーカスレースのくだりはない。白ウサギの家、子犬、鳩のシーンも略されているが、概ね原作に沿った展開で脱線は少ない。言葉遊びは皆無。脚本は〈おジャ魔女どれみ〉シリーズなど多くのアニメ作品を手掛けた影山由美。ちなみに影山は(これも平成期アニメ・レポートに書きそびれたが)演劇を主体とした〈アリスインプロジェクト〉の劇場公開版アニメ「アリスイン デッドリースクール・コンチェルト」(2017.11.)の脚本も担当している。ゾンビもので『不思議の国』とは特に関係しないが、令和期放送のTVアニメ「ゲキドル」(後述)の劇中劇ともなっている(2021.1.)。 人形アニメ「Alice in Dreamland アリス・イン・ドリームランド」(蜂須賀健太郎監督、2015.12.)についても(私は大阪の第七藝術劇場でわざわざ泊まりがけでレイトショーを鑑賞(2016.2.)したにも拘わらず)平成レポートでは失念していた。人形作家・清水真理の制作した球体関節人形のアリスは、白っぽい金髪に碧眼で青服に白のエプロンドレスという典型的だが美麗な姿。声優は「ラブライブ!」でブレイクした内田彩、白うさぎも人気の下野紘が演じている。人形アニメと言っても通常のコマ撮りではなく、撮影した人形をキャプチャしてデジタル処理することで動いているように見せたもの。ぎこちないフラッシュ・アニメーションで、耽美的な映像に終始していれば良かったが、アリスが魔法の杖でナイトやジャバウォックと闘うといったシーンは無理があった。「闇」という悪役(声は一条和矢)がジャバウォックに変化するところとか、アリスが闇の世界から帰還する場面など、説明不足で脚本が弱いと感じる。チェシャねこが服を着ていたり(これでは消えにくくないか?)、白うさぎはアリスと同じ背丈だがイモムシは小さいとか(本物のイモムシよりは巨大)、ねむりねずみが渋い声だったり(声優の川口翔)、ハンプティ・ダンプティがぺしゃんこになっていたり、といった特色はやや面白い。女性デュオの黒色すみれがOP(オープニング)「ALICE IN THE UNDERGROUND」、ED「大人になったアリス(Grown-up Alice)」の両方を歌っている。 平成レポートではCLAMP作品におけるアリス・モチーフにも 1章を費やしていたのだが、CLAMPがキャラクター原案を手掛けた「コードギアス 反逆のルルーシュ」のスピンオフOVAに「ナナリーinワンダーランド」(2012.7. 英題CODE GEASS Lelouch of the Rebellion NUNNALLY IN WONDER! WONDERLAND)のあることを書き漏らしていた。ただOVAと言ってもほぼ静止画のピクチャー・ドラマでモーション・アニメですらない。ナナリーは主人公ルルーシュの溺愛する妹で、目が見えず歩くこともできない障害者だが、不思議の国のナナリー(書物の中の存在で本人ではないという設定)は見ることも歩くこともできる。青服に白エプロンで、胸元が少し空いた衣装。声は名塚佳織。最初はDRINK MEの小瓶やEAT MEのケーキなど原典をなぞった展開だが、ドードーはナナリーを「バスルームに案内し」その間に「濡れた服をクリーニングして乾かす」などと遊び心のあるキャプションが付く(入浴する描写はない)。白ウサギ役と三月ウサギ役が「キャラ被り」を理由に闘うといったエピソードも面白い。『不思議の国』と『鏡の国』のキャラクターたちを「コードギアス」の登場人物が演じているが、例えばその作中で記憶改竄に遭うシャーリーが本作では名無しの森の子鹿のコスプレをするなど、TVアニメ本編の設定とリンクした内容になっている。 似たパターンで、プレイステーション用ゲーム「IS〈インフィニット・ストラトス〉2 ラブ アンド パージ」(2015.9.)に、ヒロインのひとりで『アリス』がモチーフの電脳空間に囚われたシャルロットを救い出す、というストーリーが含まれている。「IS」はSFアクション学園ハーレム・コメディで、ほかのヒロインもこのゲームではそれぞれ『竹取物語』や『シンデレラ』、『オズの魔法使い』などの世界に迷い込んでいる。「シャルロット編」のムーヴィーでは人気声優・花澤香菜が 1人で、白うさぎ、チェシャ猫、帽子屋、スペード・クラブ・ダイヤ・ハートの兵隊、ハートの女王、最後にはアリスの役を演じる。アリスは青服に白エプロン。もっとも当初は男性主人公がアリスの格好でシャルロットを探しに電脳空間に入るという設定である。女王は「不思議の国に来たアリスは、ねずみの家を壊したり〔白うさぎの家、ではない〕、お茶会に乱入して台無しにしたり―― クリケット大会〔クロッケーではない〕はアリスの物言いで中止。アリスが主犯の裁判中ではいきなり大きくなって大暴れ!」と評し、やりたい放題のアリスが不思議の国に来ないよう過去に遡って妨害するよう主人公に頼む、という愉快なシチュエーションがある。白うさぎの時計には「時間を飛び越える力がある」とのこと。 スピンオフという意味ではドラマCD「うたの☆プリンスさまっ♪Shining Masterpiece Show」(2018.1.)にも触れておくべきだろう。三銃士や赤ずきんモチーフのドラマとともに『不思議の国』モチーフの「LOST ALICE」が収められている。アリス役はチャールズ・リドル少年で声は谷山紀章。姉妹の設定が兄弟に置き換えられている。兄の声優は前野智昭。以下、白ウサギ 森久保祥太郎、帽子屋 鈴村健一、チェシャ猫 鈴木達央、イモムシ 宮野真守、三月ウサギ 諏訪部順一、眠りネズミ 鳥海浩輔、ハートのA 寺島拓篤、ハートの7 下野紘、ハートのJ 蒼井翔太と、いずれも人気男性声優が演じる女性向けコンテンツである。もちろん、それぞれが音楽ゲーム「うたの☆プリンスさまっ♪」のキャラでもあるという複層的な設定なのは言うまでもない。 ゲーム・アプリ「モンスターストライク」のウェブ・アニメには闇属性のモンスター「不思議の国の女王アリス」が登場する。顔は可愛いが、毒々しい紫のドレスに白エプロン、赤マントで、ウサギの人形やトランプ、ガトリング砲を操る。特に29話「アリス・イン・マッドランド」(2016.6.)はアリスがデッドラビッツという双子少女キャラと闘いロケットパンチで倒される話。 平成レポートではアリスという名前のキャラクターを網羅的に紹介したが、あとで書きそびれたと気づいた例も少なくない。比較的古いところでは、カルト的な評価が高い「serial experiments lain(シリアルエクスペリメンツ レイン)」(1998.7-9.)の瑞城(みずき)ありすがいる。ネット空間をサイコホラー的に描写する実験作だ。ありすは主人公・玲音(れいん)の親友で、教師に恋していることを除けば常識的な中学生だが、『不思議の国』のアリスのような異世界への順応性はなく、最後は狂気に陥って、ありすを救うため玲音が自らの存在をリセットするという結末だった。ありすという名前は『不思議の国』を直接意識したというより、脚本の小中千昭が自作のアリス・モチーフ作品「ありす in Cyberland」(ゲーム/アニメ1996.12.)から引き継いだもので、同作の水無月ありす役、浅田葉子が声を演じているだけでなく、麗華と樹莉というキャラと 3人組なことも共通している。 オタクなお嬢様とのラヴ・コメディ「乃木坂春香の秘密 ぴゅあれっつぁ♪」(2期2009.10-12.)にはアリスティア=レインという金髪碧眼の少女メイドが登場し、1話で「アリスちゃんの役割は要人警護と破壊工作なのです」と紹介される。声優は釘宮理恵。完結編OVA(2012.8-11.)にも顔を出すが、体術だけでなく大剣も用いたりする。メイド服のアリス、剣を振るうアリス、の比較的初期の作例と考えうる。 「機巧少女(マシンドール)は傷つかない」(2013.10-12.)のキー・パーソンであるアリス・バーンスタインは「加速する妖精(エルフスピーダー)」のコード名を持つ。この作品世界では魔力で人形を操るのだが、アリスと人形の結び付きは、70〜80年代のハンス・ベルメールや四谷シモンのブームの残滓と言えるかも知れない。平成レポートで名前のみ挙げた「転生したらスライムだった件」のアリス・ロンドも「人形使役者(ゴーレムマスター)」である。《MISCHMASCH》21号153頁では21〜23話(2019.2-3.)に登場と書いたが、正確には20話末尾で「アリス・ロンド 9歳」と紹介されている(ウェブ掲載版では修正済み)。そののちも24.5話やOAD(オリジナル・アニメーション・ディスク)、25話(2期1話、2021.1.)などに出演。脇役だが、TVシリーズが今後も続くなら、成長後の活躍の場もあろう。 スクール・カーストの上位を目指し知略で競う「ようこそ実力至上主義の教室へ」(1期 2017.7-9.、2期 2022.7-9.、3期 2024.1-3.)でリーダー格のひとり坂柳有栖(声・日高里菜)についても平成レポートでは失念していた。もっとも本格的な活躍は3期以降なので令和期のキャラクターということになるかも知れないが。理事長の娘で、歩くとき杖を突く障害者だが、悪辣な計略を得意とする。しかし容姿はアリスの名にふさわしく人気がある。 有栖川という名前についても平成レポートでは遺漏が多かったが、これは次章の末尾で述べることにする。 『不思議の国』のキャラの引用ということでは、これは昭和期のアニメだが、吸血鬼と狼女の間に生まれたヒロインを巡るドタバタ恋愛コメディ「ときめきトゥナイト」の24話(1983.3.)と最終34話(1983.9.)に魔界のチェシャ猫が現れる。担当声優は「サザエさん」の2代目フグ田マスオで知られる増岡弘だが、悪役ぽい声音だ。 《少年サンデー》連載の「今際の国のアリス」には主人公・有栖良平以下、『不思議の国』のキャラから採られた人名が存在する。抜粋的な3話分のOAD(2014.10.)があり、特に「game3」では宇佐木(女性)と無線の音声でボーシヤがからんで来る。しかし、漫画の全体としては、ほとんどアリス・モチーフを感じさせるものがなく、ただ昏睡状態で見た夢の世界という物語の結末から、このタイトルを考えついたものだろう。 ついでながら、「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」(2010.10-12.)に名前の出る「ありす+(ALICE PLUS)」という架空のメーカーは「妹と恋しよっ♪」や「真妹大殲シスカリプス」の制作会社と作中で説明されている。大阪のアダルト・ゲーム・ブランド「アリスソフト(ALICESOFT)」を意識したネーミングだろう。令和期のアニメ「16bitセンセーションANOTHER LAYER」10話(2023.12.)では日本の美少女コンテンツが壊滅的となった世界線が描かれるが、「日本にまだ残ってる大手は、もうアリスソフトくらいだ」というセリフがあって笑わされた。 萌え系お色気アニメ「To LOVEる -とらぶる- ダークネス 2nd」13話(2015.10.)でのアイキャッチ(CM前に挿入されるイラスト)はドレス姿の双子姉妹が「Eat Me?」と(視聴者に向け)問い掛ける図である。アリス・モチーフとは言い難いが、『不思議の国』由来のセリフには違いない。 「冴えない彼女の育てかた♭」1話(2017.4.)には、ヒロインの1人(日英ハーフで同人イラストレイター)が描いたアリスふう少女(青服に同じ色調のリボンと縞靴下)のパンチラの絵画にヒロインの1人(学生作家)が感動する、という風変わりなシーンがある。 音楽に賭ける青春を描く「風夏」では最終12話(2017.3.)のラスト近く、CDをリリースしたサブヒロインが青服・白エプロンにウサギの頭のかぶりものをしたシーンが描かれた。これは原作を大幅に短縮したアニメ版には説明がないが、アイドル的な歌手を引退して覆面バンド「ラビッツ」のヴォーカルとして再デビューしたことを意味している。 1、アリスという名と有栖川という姓 さて令和期(2019.5.- )最初のアリス・モチーフ・アニメは何だろうか。単にアリスという名前が登場するだけなら、「女子高生の無駄づかい」2話(2019.7.)で劇中に描かれる漫画『きんぴらごぼうの恋』の主人公が「ありす」だった。ヲタという通り名の高1女子が小学4年くらいで描いた下手くそな処女作で、りくと少年に告白されたありすは、さあどうなる? といった『不思議の国』とは無関係な内容だが、言わばアリスという名称は素人漫画にいかにも使われそうなくらい一般化しているとの認識で描かれたものだろう。 アマチュアの作という設定に限られない。「出会って5秒でバトル」6話(2021.8.)のヒロインの回想シーンでは《花とあめ》(《花とゆめ》のパロディ)連載の学園ラヴ・コメディ『花園アリス』が「アニメ2期放送中」という設定になっていた。一場のシャレみたいなもので作品の大筋には関係しないが。 アニメとほぼ同時期に NHKで実写ドラマ化されたことでも話題になった「おとなりに銀河」(アニメ2023.4-6.)でも漫画家の男性主人公が『アリスといばらの騎士』を連載していた。別段『不思議の国』モチーフはないのだが、令和期にアリスの名を冠した作中作が相次いだのはどういうわけか、理由を考えたくもなる。 アリスというのは一般名称であるが、その名を付されたキャラに美形が多いのは広い意味で『不思議の国のアリス』の影響と言えよう。以下、その令和期のヴァリエーションを編年的に見ていく。 Eテレで放映された「魔入りました!入間くん」(1期2019.10.-20.3.、2期2021.4-9.、3期2022.10.-23.3.)で人気のエリート悪魔アスモデウス・アリスは男性キャラ。アスモデウスが姓、である。 オンラインTCG(トレーディング・カード・ゲーム)「シャドウバース」のアニメ版(2020.4-21.3.)のプレイヤー、黒羽(くろばね)アリス(声・小倉唯)は、アイドルだがゾンビ好きでネクロマンサー(死霊魔術師)のカードを使って闘う。イメージ・ソングとして「瞳の国のアリス」があり、40話「アリスの本当」(2021.1.)など活躍回も多く、続編「シャドウバースFLAME」(2022.4-23.3.、23.7-12.、24.4.- )でも準レギュラー的な扱いになっている人気キャラだ。その16話(2022.7.)ではアリスとタイアップしたコーヒー缶「ALICE COFFEE」が登場するなど作品内でも人気アイドルとされているのが分かる。 女児向けアーケード・ゲームのアニメ化「キラッとプリ☆チャン」シーズン3(2020.4.-21.5.)のメイン・キャラ、アリス・ペペロンチーノ(声・ファイルーズあい)は金髪に赤い目。サーカス団で育った快活な中学3年生。実は輝(かがやき)コーポレーションの前社長の娘と判明し最後には輝アリスを名乗る。 「キミと僕の最後の戦場、あるいは世界が始まる聖戦」(1期2020.10-12.)のヒロイン、王女アリスリーゼ・ルゥ・ネビュリス9世(声・雨宮天)は普段、愛称でアリスと呼ばれている。やはり金髪に赤い目だ。 「俺だけ入れる隠しダンジョン」(2021.1-3.)のアリス・スタルジアは主人公の妹で、異様に兄に執着している。アニメの4・5・6・8話のラストには「アリス劇場」というコーナーが設けられ、兄に耳かきをしたり足で踏んだりする小芝居が描かれている。 SF設定を交えた劇団「アリス・イン・シアター」の物語「ゲキドル」(2021.1-3.)にはアリスという言葉が氾濫している。まず主人公・守野せりあの持つぬいぐるみベアの名前が「ありす」で、アンドロイド的な「アクトドール」(声 M・A・O)も、せりあによって「アリス」と命名される。実はもともと「ありす」とは、せりあの双子の妹の名前だった(故意か偶然か、守野ありすは円谷映像制作の特撮ドラマ「千年王国III銃士ヴァニーナイツ」(1999.4-9.)の主人公と同じ名前である。)「Alice in DeadlySchool」が劇中劇となっていることは既に冒頭で触れた。また「アリス・イン・パラダイス」という風俗店がスポンサーになっていたりもする。8話の回想シーンでは「Alice in Theater 旗揚げ」時のチラシを見ることができるが、青服・赤リボンのアリスにトランプと時計兎の絵である。 「戦闘員、派遣します!」(2021.4- 6.)のメイン・ヒロインは美少女アンドロイドのキサラギ=アリス。金髪碧眼に白いワンピース服、黒ネクタイ。毒舌キャラであるが、辛辣なアリスというのもアニメなどにおけるパターンのひとつと見ていい。 高校女子サッカーの世界を描く「さよなら私のクラマー」には8話以降(2021.5-6.)、安達太良(あだたら)アリスというフォワードが登場し、主人公チームを追い詰める敵方となっている。長い手足に清潔感のない長髪、ギョロ目で、坂本リョーマを女性化した「胸きゅん開国」という架空のアニメにハマっている設定。アリス感はゼロだが、その名前からの異化効果を狙った例だろう。 「探偵はもう、死んでいる。」(1期2021.7-9.)には記憶喪失の女児アリシア(声・長縄まりあ)が登場し、6話と7話(2021.8.)で名前と『不思議の国のアリス』を関連づけて語られる(7話「あのな、アリシア… 好奇心旺盛なのはいいが、お前は自分が何者かも分からない不思議の国の女の子なんだ」)。一時期は「探偵代行」に指名され、青服エプロンドレスに鹿撃ち帽の姿になったりもする。しかし、実はアリシアは切り裂きジャック的殺人鬼の裏の顔だったが、ヒロインの「探偵」によって悪の人格を封じ込められた姿がサブヒロインに生まれ変わったりと、複雑な盛り過ぎた設定である。 「異世界食堂2」6話(2021.11.)にはハーフエルフの少女アリス(声・戸田めぐみ)が出演。エルフ族は肉類を食べられないことになっていて、きんぴらのライスバーガーを提供される。9・11話にも少し登場。 劇場版「DEEMO サクラノオト -あなたの奏でた音が、今も響く-」(2022.2.)の主人公は音楽学校へ通う学生のアリス(声・竹達彩奈)。その幼少期の夢のような世界が展開され、地下世界、猫のぬいぐるみ、扉、金の鍵といった要素はあるが取り立ててアリス・モチーフとは感じられない。Deemoはピアノを弾く謎の生物だが、結末から言うと過去に交通事故死したアリスの兄。ともに事故に遭ったアリスが意識不明の時に見た世界だった。 世代を超えてヒットした「SPY×FAMILY」(1期2022.4-6.、10-12.、2期2023.10-12.)にはアーニャの同級生にアリス・ポーレットがいるが、今のところ名前のみの存在である。 スポーツで勝利した音楽ユニットが歌える、というトーナメントを描く「Extreme Hearts」の3話(2022.7.)で、作中の「人気投票」の 3位に「ラジカルアリス」というアイドル・グループがランキングされているが、名前だけで実際に登場することはなかった。 北海道の観光とコラボした「邪神ちゃんドロップキックX」7話(2022.8.)では帯広の牧場で産まれる子牛の名前がアリス。母牛の名はすずで、場所は広瀬牧場なので、『不思議の国』の引用でなく、女優の広瀬アリス・すず姉妹を意識したもの。 「アイドルマスター シンデレラガールズ」(2015.1- 4.,2期2015.7-10.)の一員、橘ありすの声を元AKB48の佐藤亜美菜が演じていることは平成レポートでも触れた。身長149cm以下の小学生アイドルに焦点を当てた「アイドルマスター シンデレラガールズ U149(ユーいちよんきゅう)」(2023.4-6.)は群像劇だが、橘ありすが主役と言ってよく、エンドロールでも最初にクレジットされている。最初は下の名前を「子どもっぽ過ぎる」と嫌がり苗字で呼ぶよう周囲に頼んでいたが、最終的には「プロデューサー! ありすでいいです! 名前とか、子どもっぽいとか、あまり気にしないことにしたんです。〔…〕子どもも大人も、本当は一緒なんだって、思ったので」と、ありすの名を受け入れる。 ゲーム・アプリ原作の「アリス・ギア・アイギス Expansion」は、本来は謎の機械生命体と戦うSFアクション(アリスギアは兵装の名称)だが、アニメ版はスピンオフで日常癒やし系が主体。8話(2023.5.)には「不思議の国ののどか」という回(のどかは主人公でアニメ版のオリジナル・キャラクター)もあるが、不条理ギャグでラストが夢落ちという以外は『不思議の国のアリス』と無関係。 ホームズ、ルパン、ファントム(オペラ座の怪人)らも出演する「アンデッドガール・マーダーファルス」の10〜13話(2023.9.)には、金髪コンパクト・ボブで二丁拳銃を用いるエージェント、アリス・ラピッドショット(声・朝井彩加)も登場する。ラピッドショットは早撃ちの意で父親ゆずりの才。やや粗暴な性格で『不思議の国』とは無縁。 「レベル1だけどユニークスキルで最強です」の10話は「アリスちゃん登場なのです」のタイトルでアリス・ワンダーランドという名前のキャラ(声・高尾奏音(かのん))がお目見え。以下、最終12話まで出演する(2023.9.)。ダンジョン内で産まれた少女で、テイマー(モンスターなどを飼い慣らす者)の能力を持ち、アニメ版ではゆるキャラ化したスケルトンとスライムを仲間にしている。 フォーミュラ4(F4)の選手権を舞台とする「オーバーテイク!」(2023.10-12.)には蜜澤亜梨子(みつざわ・ありす)という健康的な高校生レース・クイーンが出て来る(声・上田麗奈)。脇役だが1話から最終12話まで各話に少しずつ見せ場あり。 本格ミステリ「鴨乃橋ロンの禁断推理」1期の最終13話(2023.12.)Cパート(EDテーマのあとの引きの部分)では、悪役モリアーティ家と主人公ロンと「アリス」(既に殺されているらしい)は「同じ血が流れている兄弟(妹)」、なのだがロンはシャーロック・ホームズの血も継いでいるという悪役同士の会話がある。詳しくは続編で語られるのだろう。ここ数年、ホームズとアリスを引用する作品が、とみに増えていると感じる。 有栖川という姓の人物も漫画やアニメでよく見るが、大正時代まではあった有栖川宮家も絶えているし、現実には存在しない名字である。アリス・イメージが付加されることも少なくないが、宮家の高貴なイメージから令嬢キャラに使われることが多い。 最初の用例をつまびらかにし得ないが、「少女革命ウテナ」(1997.4-12.)の男装の麗人・有栖川樹璃(じゅり)は早い例だろう。しかしミステリ作家・有栖川有栖のデビューは『月光ゲーム Yの悲劇 '88』(1989.1.)でかなり早く、現在の有栖川姓の流行のもとを正せばこのペンネームと見ていいかと思う。 年少キャラでは「電脳冒険記ウェブダイバー」(2001.4.-02.3.)の有栖川アオイが早いか。小学4年生だが主人公の男子を尻に敷き、自ら「女王様」と名のることもあった。 「鍵姫物語 永久アリス輪舞曲(ロンド)」(2006.1-3.)のメイン・ヒロイン、有栖川ありす、「マリア様がみてる 4thシーズン」(2009.1-3.)の男の娘、有栖川金太郎、「キラキラ☆プリキュアアラモード」(2017.2.-18.1.)の有栖川ひまり、については平成アニメ・レポートでも採り上げたが、以下、書き漏らしていた例を列挙しよう。 プレイステーション用ゲーム原作の「らぶドル 〜Lovely Idol〜」(2006.10-12.)にはボクっ娘の声優・有栖川唯が、スマートフォン用ゲーム原作の「ガールフレンド(仮)」(2014.10-12.)には合唱部部長で恋バナ好きの有栖川小枝子が登場する。 女児向けアニメでは「ジュエルペット」(2009.4-10.3.)の有栖川あおい(声・沢城みゆき)が学園理事長の娘で、財閥令嬢という典型的な有栖川パターン。 平成レポートで「アイカツ! アイドルカツドウ!」(2012.10.-16.3.)については、アリス回として43話「不思議の国のアイドル!」(2013.8.)やら、続編「アイカツスターズ!」(2016.4.-18.3.)でのアリス・キャロルの登場を紹介しながら、開始当初からのレギュラーである有栖川おとめ(声・黒沢ともよ)に言及しないのは手抜かりだった。とはいえ特にアリス・モチーフの人物でもないが、令和期の「アイカツオンパレード!」(2019.10.- 20.3.)にも登場している。なお、「オンパレード!」20・21話(2020.2.)と最終25話にはアリス・キャロルも少し登場している。 岩井俊二監督による劇場版アニメ「花とアリス殺人事件」(2015.2.)は実写映画「花とアリス」(2004.3.)の前日譚で、有栖川徹子(通称アリス)の声は実写と同じく蒼井優が務める。別段アリス・モチーフではないが。 ほかに、声優たちの大喜利的な企画「てさぐれ!部活もの すぴんおふ プルプルんシャルムと遊ぼう」(2015.4-6.)には漫画『みならい女神 プルプルんシャルム』の登場人物、有栖川凛(声・三上枝織)が出演している。 平成レポートでは「この頃から、「俺がお嬢様学校に「庶民サンプル」としてゲッツされた件」(2015.10-12.)の有栖川麗子(金髪碧眼)、「落第騎士の英雄譚(キャバルリィ)」(2015.10-12.)の有栖院凪(男性)、「SERVAMP(サーヴァンプ)」(2016.7-9.)の有栖院御園(みその)(男性)、「龍の歯医者」(2017.2.)の有栖川カンネと、有栖という姓を持つ登場人物が増えて来た。」と述べたのだが、もう少し以前からの傾向と見ていいのかも知れない。 ここまでは美少女もしくは美少年という意味でアリスのイメージがないでもなかったのだが、例外も出て来た。 サンリオの音楽バンド企画「SHOW BY ROCK!!」(アニメ1期2015.4-6.、2期2016.10-12.)、続編「SHOW BY ROCK!!STARS!!」(2021.1-3.)で、小さな音楽事務所の代表、有栖川メイプルは、卵形に手足が付いたふうの中年親爺。ハンプティ・ダンプティを意識した造形とも思われる。 戦争がなくなりラップでバトルするようになった奇抜な世界を描く「ヒプノシスマイク-Division Rap Battle- Rhyme Anima」(2020.10-12.、2期2023.10-12.)の有栖川帝統(だいす)はギャンブル好きの青年で、アリスみは無い。異化効果を狙った例か。 とはいえ令和期においても有栖川姓は基本的に美少女の代名詞である。 「トニカクカワイイ」(2020.10-12.、2期2023.4-6.)で主人公夫妻が世話になる銭湯「草津温泉風湯布院」の娘が有栖川綾・要姉妹。 戦隊ものパロディ「恋は世界征服のあとで」(2022.4-6.)のピンクジェラートこと有栖川ハル(声・日高里菜)も可愛らしい役回りだった。 なお平成レポートで令和期にアニメ化される作として音楽ゲーム・アプリ「アイ★チュウ」の有栖川ララ・有栖川ミミに言及したが、そのTVアニメ版(2021.1-3.)には登場しなかった。続編のありそうな終わり方ではあったが、さほどの人気もないだろう。 令和6年に放送のアニメでも「アイドルマスター シャイニーカラーズ」(2024.4-6.)の有栖川夏葉(なつは)は社長令嬢で典型的な有栖川キャラだ。 また、複数の音楽ユニットの青春群像を描く「D4DJ All Mix/ディーフォーディージェーオールミックス」(2023.1-4.)で主人公グループが通うのは有栖川学院の高等部。むろん、お嬢様学校という設定である。 2、アリス回とアリスのコスプレ 『不思議の国』や『鏡の国』の場面やキャラクターを、多少とも原典を意識した形で引用したエピソード回を取りあえずアリス回、と呼んで置く。 「荒ぶる季節の乙女どもよ。」の10話「穴」(2019.9.)には冒頭近く、文芸部の部長が青服白エプロン、白靴下、頭は細い赤リボンのアリスの姿でキノコの森を走る、というイメージ・シーンがある。部長の恋人も時計と傘を持ったウサギ耳の姿で少し現れる。これは男女交際潔癖症の部長のゆらぐ心象風景を描いたものと思われる。この作品は《別冊少年マガジン》連載ながら、原作・脚本を岡田麿里が手掛け、生真面目な女子高生の性の悩みに踏み込んだ意欲作だった。ともあれ令和期最初の『不思議の国』モチーフのアニメとは言える。 なお、岡田麿里監督の劇場アニメ「アリスとテレスのまぼろし工場」(2023.9.)の「アリスとテレス」は寺山修司由来と思われるが(《MISCHMASCH》23号(2021.11.)110頁参照)、少女アリスも少年テレスも作中に登場せず、ただアリストテレスの格言の引用があるのみである。 平成レポートでも採り上げた大河アニメの続編「ソードアート・オンライン アリシゼーション War of Underworld」の4話(2019.11.)冒頭にはアリシアという少女(声は主役級の騎士キャラ、アリスと同じ茅野愛衣)が『Alice's Adventures in Wonderland』を読んでいるという原作小説にはない回想シーンがある。アリシアはラスボスとなる悪役に耳に千枚通しを突き込まれ殺される運命。悪役が「アリス…君の魂は、きっと甘いだろう」と、つぶやく。 アリスの本そのものが描かれる点では、日常的な高校生活を描く恋愛群像劇「ホリミヤ」8話(2021.2.)で、生徒会長とその彼女のカップルの馴れ初めが、会長が『海底二万海里』『若草物語』『鏡の国のアリス』の本を貸し、「面白くて夢中になっちゃった。」と返される(ただし印象に残ったのは同時に貸した明日地球が滅亡する話、らしいが)というシチュエーションで回想される。彼女も生徒会役員だが、勉強は苦手という設定。 令和6年の作「メタリックルージュ」6 話(2024.2.)でも火星からの連絡船内で『不思議の国』の英書が読まれるという描写があった。 「死神坊ちゃんと黒メイド」(1期2021.7-9.、2期2023.7-9.、3期2024.4-6.)は、触れたもの全てを死なせてしまう呪いを魔女にかけられた貴族の「坊ちゃん」とセクシーなメイドの「アリス」のラヴ・コメディだが、1期7話(2021.8.)のCパートが『不思議の国』のネタだった。2人が書庫で呪いを解く書物を探していて、挿絵にハンプティ・ダンプティの描かれたALICEの本を開いた途端、天井近くを浮遊する金髪碧眼、青服に白エプロン、縞靴下の謎の少女(声・田村ゆかり)が現れ、「時計をした白いウサギを連れて来て」と頼む。それきり2人の意識が遠くなり、気づいたら林の中にいたという。時計を耳に嵌めて四つ足で跳ねるウサギを追うと、テーブルの上にDRINK MEの瓶とイチゴのショートケーキ。メイドのアリスが小さくなったりもするが静止画で、そのあたりは軽く流される。夢の中の世界なので呪いはなく、触れあえる2人はキスしようとするが寸前で坊ちゃんが目覚める。田村ゆかりが「お前らホント使えねーっ。ウサギ探すどころかイチャイチャイチャイチャしやがって」と毒づいて幕。なお、19話(2期7話、2023.8.)の冒頭部は『赤ずきん』の本の世界に入り込む話。 岐阜県多治見の美濃焼をテーマとする高校陶芸部の物語「やくならマグカップも 二番窯」7話(2021.11.)では文化祭で生徒が「Alice Cafe」を催す。赤いカチューシャ風のリボンで、緑服のエプロンドレスは珍しいが作画クオリティは高くない。吹奏楽部の物語「響け!ユーフォニアム2」6話(2016.11.)でメイド喫茶「Cafe in Wonderland」が開かれていたことは平成レポートに書いたが、ついでに言えば「ご注文はうさぎですか? BLOOM」4話(2020.11.)での文化祭のカフェの呼び込みもアリスふう衣装だった。 「可愛いだけじゃない式守(しきもり)さん」(2022.4-7.)のOP映像には青服に白エプロンのヒロイン・式守さんとウサギ耳の主人公・和泉くんに、ディズニーのチェシャを思わせるまだらの猫、キノコ、トランプなどのイメージ・シーンが、ほんの数瞬ある。また、このアニメの放送開始前、毎月書き下ろし脚本の「ボイスドラマ」が公開され、第1弾「ハロウィン」(2021.10.)では『アリス』が話題になっていた。和泉「あ、不思議の国のアリスはどお? アリスの衣装ってヒラヒラして、すごく可愛いよね、式守さん似合いそう!」〔…略…〕式守「和泉さんがそう言うなら…。じゃあ和泉さん、ウサギやってください!」〔…略…〕「そ、そう? 式守さんがそう言うなら… うん、やってみようかな、ウサギ」「はい! そう言えば、『不思議の国のアリス』って、どんなお話でしたっけ?」「時計を持ったウサギがなんか急いで走ってて、アリスがそれを追いかけて不思議の国に行く、そんな話かな」「そうそう、不思議の国へ行っていろいろ大変な目に遭うんですよ。涙の海でおぼれそうになったり、体が大きくなったり小さくなったり、裁判にかけられてトランプの女王さまに処刑されそうになったり」「はあぁ、大変だ…。アリスってすごい不幸トラブルに襲われてるね」「大丈夫ですよ、涙の海におぼれそうになってもわたしが引き上げますし、体が大きくなっても小さくなっても、わたしがそばにいます。処刑なんてさせません。〔イケメン声で〕どんな不幸が襲いかかって来ても、ウサギ和泉さんは、わたしが守りますから」(声・式守=大西沙織、和泉=梅田修一朗)…和泉くんは不幸が寄って来る体質で、それを式守さんが護る、というパターンのラヴ・コメディなのだった。 人気作の3期「かぐや様は告らせたい -ウルトラロマンティック-」の11話(2022.6.)にもアリスらしきイラストが数瞬、現れる箇所がある。文化祭で主人公のかぐやが男性主人公にバルーン・アートを作ってもらうシークェンスがあるのだが、「ウサギの耳とかは恥ずかしいので遠慮したいです。あとしぼんだとき悲しいので動物はNG。でも女の子らしくてかわいいもの。それでいて赤とかピンク系統のが…」と、注文を付けたところで、イメージ画として白エプロンに青服と赤服両様のアリスふうの絵が登場する。 「氷属性男子とクールな同僚女子」7話(2023.2.)はハロウィンのコスプレ大会の話(近年、このイヴェントとアリスを組み合わせるエピソードもパターンになって来た)。主人公たちはドラキュラのコスプレをするが、会社の美人社長は『アリス』のハートの女王の衣装。同じ画面にトランプ兵と兎耳の帽子屋(?)、キノコ、青服アリスのコスプレ社員も一瞬、見える。それを眺めた同僚の「首を斬っておしまい!ってやつ?」との問いかけに主人公が「クビ… 社長のセリフとして考えると妙にリアルで怖いな」と応える。 異世界ファンタジー「冰剣の魔術師が世界を統べる」最終12話(2023.3.)では仲間の魔術師の1人キャロル=キャロライン(声・内田真礼)が戦闘に参加し、「キャロル・イン・ワンダーランド! スルー・ザ・ルッキング・グラス!」という技を放つと、ステージ上で青服のアリスふうアイドル衣装になる場面がある。 「山田くんとLv(レベル)999の恋をする」はオンライン・ゲームでの繋がりが交際に発展する話だが、4話(2023.4.)のCパートでギルド・マスターの瑠璃姫が「よく使うアバター」として「アリスの花時計セット」という衣装を紹介する。青服に白エプロン。エプロンには濃い藍色のハート・マークがひとつ、同色のリボンを頭頂と首に付けている。ウサギ耳で肩から懐中時計をぶら下げた形。アリスと白ウサギの融合パターン。 「カワイスギクライシス」は、文明レヴェルの低い星を滅ぼす宇宙帝国の調査員らが地球でネコなどの動物に遭遇し、経験したことのない可愛さにメロメロになる物語だが、8話(2023.5.)はウサギがメイン。懐中時計をぶら下げたウサギを主人公の宇宙人たちが追うイメージ・シーンがある。ウサギ・カフェの店長によるナレーション「ウサギというのは動物の中で、とりわけメルヘン度が高い。一度目を奪われれば、不思議の国へといざなわれるのも無理はない」。 学園ハレームもの「君のことが大大大大大好きな100人の彼女」11話(2023.12.)の特殊EDには『不思議の国』のコスプレが登場。上坂すみれが声を演じるヒロインの1人(彼女だけは学生でなく大人の女性)が青服に白エプロン(ポケットがハート型)、黒リボンのアリスの姿。その娘で本渡楓が演じるヒロインがハートの女王。年齢が逆転しているのが面白い。ほかのヒロインが白ウサギ、チェシャ猫、三月ウサギと帽子屋となっている。 以上の作品は比較的メジャーなものに範囲を限っていたのだが、むろんアダルト向けOADにもアリス・モチーフは見られる。例えばアリスという名のキャラが登場するものや、舞台設定を「不思議の国」と称するものなど少なくないと思われるが、把握し切れないし、狭い意味での『不思議の国のアリス』ネタとなると多くはないだろう。 そんな中で真っ向から『アリス』を扱った成人向けパロディがあったので紹介して置こう。魔人というファンタジー調のアダルトものに特化したレーベルの「おとぎばなしの鬼ごっこ」2話「アリスの壊れた世界」(2023.3.)で、20分の作品。同人ゲームが原作で、第1話は「赤ずきんとケダモノたち」だった。異世界に落下して来たアリスの最初のセリフは「痛〜い。ああ、ここはどこかしら? オーストラリア? ニュージーランド?」で、それなりに原典を読み込んでいると分かる。アリスは青服にエプロンドレス、頭頂に黒リボン、青と白のニーソックス。白ウサギは冒頭のみのチョイ役。トマト・ジュースのようなものを飲んで巨大化するが小さく戻る描写は無く、いきなり巨大なイモムシのブルートにいたずらされる。ブタを救い出しても、ブタに犯される。ただチェシャ猫は一見邪悪だがアリスに助言するニュートラルな存在である。公爵夫人と女王は美人だがセリフのない端役。「クロッケー」はフライパンのようなもので白い毛玉を打つ変な競技で、アリスは参加しない。王様に言われてグリフォンにウミガメモドキのスープの作り方を訊きに行くが、グリフォンにも犯される。アリスは裁判で「巨大化して王宮を破壊した罪、公爵夫人の食材であるブタを盗んだ罪、そして王命を放置してグリフォンと淫行にふけっていた罪」で有罪となり、王様にレイプされる。さらに「公開性交」を宣告されるが、夢落ちで寝ながら身悶えているアリスを見て困惑する姉のシーンで幕。 3、アリス・キャラの応用的引用 アリス以外の『不思議の国』『鏡の国』のキャラクターたちへの扮装は、ここまでに紹介した作品にも多かったが、その要素が一人歩きし、意味深なイメージとして使われることもある。あまり例は多くないが。 「INFINITE DENDROGRAM インフィニット・デンドログラム」(2020.1-4.)のタイトルはVRMMO(仮想現実大規模多人数同時参加型オンライン・ゲーム)の名称で、その管理AI がアリス・キャラである。原作小説ではAI 1号アリス、2号ハンプティダンプティ、3号クイーン、4号ジャバウォック以下、13号チェシャまで詳細な設定があるが、アニメ版ではチェシャなどがほんの少し活動した程度だった。 中国発祥の女性向け恋愛シュミレーション・ゲームを原作とした「恋とプロデューサー EVOL×LOVE(イボルラブ)」(2020.7-9.)では、毎話冒頭に「同じ場所にとどまるためには、全力で走り続けなければならない 〜赤の女王仮説〜」というエピグラフが掲示される。この進化論の学説は「生物種が存続しつづけるためには、常に持続的な進化をする必要がある」という、リー・ヴァン・ヴェーレンが1973年に提唱した仮説であるが、この作品内では、超能力を「人類が生き延びるための、最後のあがき」「この世界を生き延びる、ただひとつの方法」と意義づけるために用いられている。超能力を生む遺伝子をEVOLと呼んでいるが、映像制作会社を運営する女性主人公の「わたし」(声・金元寿子)は超能力者を覚醒させる「クイーン」という遺伝子を持つ。その能力を人類の変革のため利用しようとする勢力に巻き込まれつつ、「わたし」と超能力者たちとの逆ハーレム恋愛劇が展開する。 「シャングリラ・フロンティア 〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜」(1期2023.10.-24.3.)では「致命」と書いて「ヴォーパル」と読む単語が頻出する。武器としての「致命の包丁(ヴォーパルチョッパー)」「ヴォーパルブレード」、モンスターだがやがて主人公の心強い協力者となるウサギたち「ヴォーパルバニー」、さらに死地に挑むような心意気をしばしば「ヴォーパル魂」と表現している。これは《MISCHMASCH》20号(2018.11.)で私が言及しているが、大もとは『鏡の国』1章の詩の文句でジャバウォックを刺し殺したvorpal swordに由来する。以下《MISCHMASCH》から引用するが、「「ザナドゥ」(1985.- )で「ヴォーパル・ウェポン」が登場したあたりを皮切りに、「ウィザードリィ(wizardry)7 ガーディアの宝珠(Crusaders of the Dark Savant)」(1993.- )の「ボーパル ブレード」、「テイルズ オブ」シリーズ(1995.- )の「ヴォーパルソード」等々が生まれてい」た。さらにアリス・ファンにはお馴染みの「American McGee's Alice」(2000. 日本語版「アリス イン ナイトメア」2001.)のVorpal Blade(日本版ではヴォーパルナイフ)も当然、意識したネーミングと思われる。なお、この「シャングリラ・フロンティア」には今後アリスという人物が登場するようだが現在までのところ具体的説明はない。2期以降の展開が待たれるところだ。 最後に余談だが、本屋大賞受賞作が原作のアニメ映画「かがみの孤城」(2022.12.)は鏡の中の異世界に入る点だけは『鏡の国』由来とも言えるが、ストーリー的には「赤ずきん」と「七匹のこやぎ」の引用からなり、アリス・モチーフは皆無。こうしたパターンはけっこう多いと思われる。例えば、平成レポートでも触れたように「映画 Yes!プリキュア5 鏡の国のミラクル大冒険!」(2007.11.)はアリスと関係しないし、西尾維新原作の「続・終物語」(2019.5-6.)も鏡世界の話だが『鏡の国』モチーフはない。ただそのEDテーマの「azure」には「鏡の国」という歌詞も含まれてはいる。 以上、主に令和期最初の5年間(2019-23.)に限定してアリス・モチーフのアニメ作品を追ってみた。 むろん令和6年に入っても、リメイク版「うる星やつら」30話(2024.2.)以降に時計ウサギの因幡くんが登場したり、オリジナル・アニメ「終末トレインどこへいく?」(2024.4-6.)に作中作「練馬の国のアリス」が描かれるなど『アリス』応用作の隆盛は続いている。 一応、目に付いた限りのものは網羅したつもりなのだが、取りこぼした作品に気づかれた方は、筆者までご連絡いただけたら嬉しい。データ的に列挙しただけで分析というほどのこともしてないが、読者諸賢の考察の一助にでもなれば幸いである。 (2024.8.18.)
作品名は「 」(単行本タイトルは『 』、英文ではどちらも“ ”)、シリーズ名は〈 〉、雑誌名は《 》で括った。〔 〕内は大西による補足。 Representations of Alice in Japanese anime from 2019 to 2023 (the Reiwa period) Shousei OHNISHI This is a comprehensive introduction to the Alice motif in Japanese anime from the last five years, the new era name, Reiwa. I described the works before that date in《MISCHMASCH》No. 21 (2019) , but there is no summary in English. During this period, there were many characters claiming to be Alice (or Arisu), including the following. “Wasteful Days of High School Girl”Ep.2(2019.7.)Arisu(a character in the story within the story) “Sword Art Online: Alicization ? War of Underworld”(2019.10-12., 20.7-9.)Alice Zuberg or Alice Synthesis Thirty “Aikatsu on Parade!”(2019.10.-20.3.)Otome ARISUGAWA, Alice Carol “Welcome to Demon School! Iruma-kun”(2019.10.-20.3.,21.4-9.,22.10.-23.3.)Alice Asmodeus(male) “Shadowverse”(2020.4-21.3.)“Shadowverse F”(22.4-23.3,7-12.,24.4.- )Alice KUROBANE “Kiratto Pri☆Chan” Season3(2020.4.-21.5.)Alice Peperoncino or Alice KAGAYAKI “Our Last Crusade or the Rise of a New World”(2020.10-12.)Aliceliese Lou Nebulis IX(popular name‘Alice’) “Hypnosis Mic: Division Rap Battle”(2020.10-12., 23.10-12.)Dice ARISUGAWA(male) “Fly Me to the Moon(Tonikaku-Kawaii)”(2020.10-12., 23.4-6.)Aya & Kaname ARISUGAWA “Special training in the Secret Dungeon”(2021.1-3.)Alice Starga (or Stardia) “Gekidol”(2021.1-3.)‘Actdoll’Alice(Android) “Combatants Will Be Dispatched!”(2021.4- 6.)Alice KISARAGI “Farewell, My Dear Cramer”Ep.8-13(2021.5-6.)Alice ADATARA “The Duke of Death and His Maid”(2021.7-9., 23.7-9., 24.4-6.)Alice Lendrott “Battle Game in 5 Seconds”Ep.6(2021.8.)Arisu HANAZONO(a character in the story within the story) “The Detective Is Already Dead”Ep.6-11(2021.8-9.)Alicia(Alice-like Costume) “Restaurant to Another World 2”Ep.6・9・11(2021.11-12.)Alice(half-elf) “Deemo: Memorial Keys”(2022.2.)Alice(amnesiac girl) “Love After World Domination”(2022.4-6.)Haru ARISUGAWA “Classroom of the Elite”(2017.7-9., 22.7-9., 24.1-3.)Arisu SAKAYANAGI “Dropkick on My Devil!” Season3 Ep.7(2022.8.)Alice(calf) “Spy × Family”Ep.18(2022.11.)Alice Paulet “THE iDOLM@STER Cinderella Girls: U149”(2023.4-6.)Arisu TACHIBANA “A Galaxy Next Door”(2023.4-6.)Alice(a character in the story within the story) “Undead Girl Murder Farce”Ep.10-13(2023.9.)Alice Rapidshot “My Unique Skill Makes Me OP Even at Level 1” Ep.10-12(2023.9.)Alice Wonderland(person's name) “Overtake!”(2023.10-12.)Alice MITSUZAWA(grid girl) “Ron Kamonohashi: Deranged Detective”Ep.13(2023.12.)Alice(The Moriarty Family) Note that ‘Alice Gear’ in "Alice Gear Aegis Expansion" (2023.4-6.) is the name of the armament. “Sword Art Online: Alicization -War of the Underworld”Ep. 4 (2019.11.) has Alicia reading“Alice's Adventures in Wonderland”and,“Horimiya”Ep.8 (2021.2.), the book“Through the Looking-Glass”appears in the work. The following works include cosplay of Alice or characters from“Wonderland”. However, it also includes footage of only a few moments. “O Maidens in Your Savage Season”Ep.10(2019.9.) “Is the Order a Rabbit? BLOOM”Ep.4(2020.11.) “The Duke of Death and His Maid”Ep.7(2021.8.) “Let's Make a Mug Too: Second Kiln”Ep.7(2021.11.) “Shikimori's Not Just a Cutie”(2022.4-7.)OP “Kaguya-sama: Love Is War -Ultra Romantic”Ep.11(2022.6.) “The Ice Guy and His Cool Female Colleague”Ep.7(2023.2.) “The Iceblade Sorcerer Shall Rule the World”Ep.12(2023.3.) “My Love Story with Yamada-kun at Lv999”Ep.4(2023.4.)C-Part “Too Cute Crisis”Ep.8(2023.5.) “The 100 Girlfriends Who Really, Really, Really, Really, Really Love You”Ep.11(2023.12.)ED There is also “Fairy Tale Tag Game 2(Otogibanashi no Onigokko 2) Alice's Broken World”(2023.3.)in the adult OAD. In addition, “Infinite Dendrogram”(2020.1-4.)is about a VRMMO whose management AI is named after a character from“Alice in Wonderland”. In“Mr. Love: Queen's Choice”(2020.7-9.), the evolutionary theory ‘Red Queen's Hypothesis’ is used to explain psychic powers. “Shangri-La Frontier”(2023.10.-24.3.) uses words such as Vorpal Chopper, Vorpal Bunny, and Vorpal Damashii (Soul), all derived from‘Jabberwocky’.
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