| Home|

「はあ、ありゃ、腕っすよ、だんな!」 (腕を「んんで」と、まのびして言う。)
(“Sure,it's an arm,yer honour!” ( He pronounced it“arrum.”) )

 yer は you の、くずれた形。
“arrum ”と発音が間のびしているのは、アイルランド訛り。


キャロルの言葉遊びとしては単純なものだが、この部分には意外にも各翻訳者によって、かなりのヴァリエーションがある。 (あるいは 7章章題と同様、差別的なニュアンスをごまかそうとして、言葉が上滑りするのかも知れないが)。

まず、言葉遊びを訳さない姿勢を通している吉田健一訳から紹介すると、 ただし、使用人パットが “ガチョウ” かどうかは疑問(→次注参照)。
arrum の訳として最も多いのは、“うんで”である。
田中俊夫、八波直則、生野幸吉、芹生一、高杉一郎、宗方あゆむ、高山宏(1994.)等が用いている。
以下の引用は生野訳。 脇明子訳は“ウンデ”。
石川澄子訳 酒寄進一(1995.)は“「んで」”としている。酒寄訳はドイツ語からの重訳のようであるが、実際には過去の翻訳を複数参照しており、石川訳に倣ったと思われる箇所も数カ所ある。
岩崎民平訳 多田幸蔵、原昌訳も“腕っこ”で、岩崎訳の影響が顕著と言えよう。
飯島淳秀訳(1967.) 北村太郎訳も “うれ” だが、これはおそらく偶然だろう。
中山知子訳 引用の最後では「で」の数がひとつ増えている。こういう饒舌さは中山知子の特徴。
立原えりか訳(1983.) 1988版の文章では“(腕を、うびこと言ったのです。)”“ふさがってやんすな。”のように多少リズム感が出るよう、全体に修正している。
高橋宏訳(1987.) 追記。 石井睦美訳(2008.)は “うぅで”。高山宏訳(2015.)は “ううで”。
うえさきひろこ訳(1996.)
矢川澄子訳(1994.) いで、という発音にも矢川訳のクセの強さが出ている。
追記。

村山由佳訳(2006.)

楠本君恵訳は “腕ぇ”、久美里美訳は “うんでぇ”(いずれも 2006.)。
書きそびれていたが、70年代の翻訳を代表する福島正実訳は “うでえ”。
山形浩生訳(1999.) 訛りを yer honour の側で表現した(「先生」という訳には、やや違和感もあるが)。

(最終更新 2015年 5月 3日)