芹生一は成蹊大学名誉教授、工学博士。『不思議の国』の完訳者では、唯一の理系である。 とはいえ、詩・小説も書いた経験があり、日本語がこなれていて、その訳語は後代にかなり影響した。 〈偕成社文庫〉には他に、芹生訳の『ピーターパンとウェンディ』、キングズリー『水の子どもたち』完訳がある。 　〔→『鏡の国』〕
〈偕成社文庫〉版の実際の刊行日（取次への搬入日）は1979年12月18日。偕成社では刊行日が15日を過ぎると翌月の刊行と記載するのが原則なので、初版 1刷では“1980年 1月”の刊行となっている。現行の奥付では“1979年12月　1刷”だが、これは社の原則からすれば、誤りという事になる。 2刷は確認していないが、3刷（1981年12月）の段階ではすでに“1979年12月　1刷”の記述。

Martin Gardner 『The Annotated Alice』（1960.　改訂版1970.）の翻訳。この本によりガードナー（1914-2010.）の注釈が広く一般に知られた。流暢な文章とは言いがたいがヴォキャブラリーが豊富で、のちの訳に多く取り入れられている。

ガードナーの注釈を除いたヴァージョン。 　　〔→ 石川訳『鏡の国』〕

原典をほとんど無視した創作。　→「ミュージカル」

黒井健の仕事として優れたもので、絵本としてのクオリティが高い。『All things Alice』でも紹介されている。

以上は抄訳だが、子ども読者を意識しているぶん読みやすい。桜井美知代の挿画は帽子屋の顔をキャロルとして描いた点が特徴的。 集英社1990版（現役）は訳注も面白く、リライトの中では断然お買い得だ。

〔→ 柳瀬訳『鏡の国』〕

子ども向けの訳、というより子どもっぽい訳だが全訳。　しかし蕗沢による解説は典型的な「キャロル＝ロリコン説」。

当時の“乙女チック路線”を代表するマンガ家による絵本化。　→「漫画」

付 「いもうとのためのアリス」（Nursery“Alice” 『子ども部屋のアリス』の翻訳）。

“アリスは川岸にすわって、あくびをかみころしていました。”ではじまる第 1章は、なぜかくだけた意訳が多い（立原はディズニー絵本（1987.等）でも「あくび」を用いている）が、全体としては立原本来の星菫派的な“きれいな”日本語と、キャロルのシャープな言葉遊びとが齟齬を来している印象はぬぐえない。
7章章題は“おかしなおかしなお茶の会”。mad をフラワーブックス版では“頭がうかれてる”と訳（てんとう虫版で“いかれてる”と修正）。 章末のヤマネのＭづくしは“　　 しで始まるものだったのです。たとえば知らない歌、それからしまうま、静かな夜、そして失敗……ほら、失敗は成功の母というじゃありませんか……失敗をくんだ経験って、あなた持っておいでですか？”〔文章は、てんとう虫版による〕
11章で“告訴状”を読みあげる白ウサギを「式部官」と呼んだのは、長澤才助（1928.）以来か（Herald の訳語としては正当なものだが、多くの訳では「伝令」として来た）。
てんとう虫版、吉田新一（立教大）の解説は替え歌遊びの例として 「われは蚤の子しらみの子〜」等を挙げる。
なお、立原には『かいのなかのアリス』（太田大八画、フレーベル館〈おはなし絵本〉5、1986.）という創作絵本がある他、ディズニー以外の「アニメ風絵本」の文章も担当している。　→「10年代リスト」

海外のポップアップ版をそのまま再現。テニエルの絵を模倣したファン好みの仕上がりで、立体絵本としては異例のロング・セラーとなった（英語版は既に絶版）。 日本語訳文も奇をてらわない、クセの少ないものだが、立原えりか訳を参照しているのが明らか。

企画編集 グループPOCO。英語・日本語対照の英語学習絵本。文章自体は非常に簡単。〈オレンジ絵本伝記シリーズ〉（キューリー夫人、リンカーン、ガリレオ、野口英世…）と対の企画で、各全24巻が刊行された（1984.3.〜1986.8.）。 当初は毎月1冊刊行の予定で、学研の学習雑誌などと同様、“オレンジ・セールスレディー”が配本したようだが、それほど普及しなかった。

アリス・ブームを牽引した碩学による名訳。

7章のみ抄出。解説 塚原亮一。

吹き出し文後藤晴恵。全4章に仕立てたリライト。西村は“前ベネチア大学講師、千葉大学講師”。“名作解説”吉田新一。付「漢字関連学習おもしろ百科」。 シリーズ監修 高橋健二、金田一春彦。（この項の情報は当初、宮垣弘氏からご提供いただきました。→参考画像　ケース表）

解説（年譜）北村太郎。鑑賞　阿刀田高「ファンタジーの原点」。
2006版はカヴァー画 羽海野チカ。 2012版はカヴァー画 村田雄介。いずれも夏期の文庫フェア「ナツイチ」の企画。

〔→ 北村訳『鏡の国』〕

作場知生のイラストは、アリスを実在のAlice Liddell ふうに描いた点が特徴的。海外でも評価を受けた。
Nursery“Alice” の翻訳 『よみきかせ　ふしぎのくにのアリス』 にも用いられている。

蕗沢忠枝訳（1982.）が「小学中級〜中学生向」なのに対し、こちらは「小学初・中級向」で、どちらも現役。キャロルの翻訳者には童話作家以外に詩人も多いが、矢崎は“童謡詩人”。ちょうど、この頃から 金子みすゞ の研究紹介に傾注しはじめる（〈新装版　金子みすゞ全集〉別巻『金子みすゞノート』JULA出版局、1986.等）。 田村セツコのイラストは基本単色（黒）だが、表紙・扉のほか 5枚のカラー画が含まれる。〔→オールカラー版（「10年代リスト」）〕

〔→「漫画・アニメ風絵本・ミュージカル」〕

ロンコの絵は一見 新鮮なようだが、アリスのうねる髪型はラルフ・ステッドマン、白ウサギの家から手足を出す図はディズニー、いも虫はグィネッド・ハドスン、帽子屋が帽子を重ねてかぶるのはアンソニー・ブラウン（元祖はブランチ・マクマナスだが）、と実質的には過去の作品へのオマージュで、それらを凌駕するほどの個性はない。 巻頭に「ふしぎの国」、以下「青い鳥」、ゴッツァーノ「三つのおまもり」、アンデルセン「とてもしんじられないこと」、アービング『アルハンブラ物語』より「二つのひみつのぞう」を収録。画家は作品ごとに異なる。吉田新一 監修。編集アドバイザーみなみらんぼう。作家案内 安藤美紀夫（日本女子大）。

最終更新　2022年 8月15日