英題『Learning English through Alice's Adventures in Wonderland by Lewis Carroll』。
付属CD に収録している朗読は5章まで、6章以下は国際語学社のサイトからダウンロードする形である。
現行の英語学習書で対訳形式の全訳は、この本のみ(のち、安井泉 訳注が出版された)。
テクストは基本的にプロジェクト・グーテンベルグ版を使用している。 10章、フクロウとヒョウの詩、ウミガメ・スープの歌の脚韻を無視しているのは、語学書としてはいかがなものか。
bathing-machinesを“着替え用の馬車”、The Mock Turtleを“海亀風味”としている点は大西小生訳と共通している。
菊池寛・芥川龍之介共訳、喜一画 『アリス物語』真珠書院〈パール文庫〉、2014.6.
表紙・本文挿絵のイラストレーターは代々木アニメーション学院東京校キャラクターデザインコースの学生(女性)。
〈パール文庫〉は、主に参考書の制作を行う真珠書院が古典的佳作を、新字新仮名、現代風のイラストで送るB 6版のシリーズ。その第 6弾。同時発売は松本泰『紫の謎』。
解説 江藤茂博(二松学舎大学文学部教授。〈パール文庫〉作品選者)。底本の序文および「はしがき」は略されている。
また、底本のルビで必要なものが略されているところが、かなりある(「反対人」に“アンティパシィーズ”のルビが無い等)。底本どおり、Ou est ma chatle?になっている箇所は chatte に修正して欲しかった。
それは措くとしても、猫のDinahが“デイナー”だったり、“トランプ・カルタ”というような古めかしさが作中に溢れている。
“お帽子屋”に(帽子屋と言っても帽子を売ったり作ったりする人のことではありませんアダ名の帽子屋です。)という割り注が付いていたりと、引っかかる文章も多い。
冒頭部などには ALICE IN WONDERLAND と記載されているが、もちろん Alice's Adventures in Wonderland の全訳。
大久保氏は1982年生まれで“キャロルの生まれた150年後に生まれ”ている。30歳で『アリスの地底めぐり』を訳し(黄金の昼下がりはキャロル30歳の 7月 4日)、その 3年後、『不思議の国』出版150年に当たる 2015年 7月 4日に〈青空文庫〉版を公開する(キャロルは最初の版を Alice Liddell の手元に 1865年 7月 4日に届くようロンドンから発送している)等、思い入れのこもった翻訳。
アリスはお嬢さま言葉、白ウサギは“おじゃる”言葉をしゃべる。the Duchess を“御前さま”、the March Hare を“ヤヨイウサギ”と訳。タイトルにも端的に顕れているように実験的だが、全体に平仮名の多いくだけた語り口調を採用している。
英文対照の訳(横書き)で、英文は初版形。not/knotのシャレを「何なんだ、このむすめは」「むすびめですって!」〔原文、傍点あり〕とするように工夫した訳がある一方、Tortoise because he taught us の部分を「だって、先生なんだぞ。ぼくたちとは立場が違うじゃないか」とするなど、シャレをシャレとして訳さず、少し改変することで文意を通す技法が数ヵ所に見られる。
巻頭詩は「『不思議の国のアリス』完全ガイド」146〜7頁に訳されているが、訳者は不明。
挿絵に相当するアート作品の 30名の“参加クリエイター”については、Amazon の頁を参照のこと
(冒頭、“イラスト・造形”となっている水野真帆の作品は仕掛け絵本)。ゴシック&ロリータ系のモデルである深澤翠がアリスに扮して“出演”している。
シリーズは横山洋子監修。石井睦美は2008年に完訳版の『不思議の国』を出しているほか、『都会のアリス』(岩崎書店、2013.)という創作も書いている。このリライト版は全154頁で、カラーイラストの入った頁と文字だけの頁が見開き交互の構成。折り込み口絵も楽しい。
原典にほぼ忠実な内容で勝手な改変箇所は少ないが、料理女がアリスに文句をつけたり、グリフォンが“アリスを背中に乗せて”飛んだりもする。女王の「首を切れ」の台詞は、子ども向けに「ろうやに入れよ!」と直されている。3章 the Lory をインコとオウムの両様に訳しているのは完訳版と同じだが奇妙。
『The Annotated Alice 150TH ANNIVERSARY DELUXE EDITION』 W.W.Norton&Company Inc.(2015.)の全訳。『不思議の国』刊行150周年記念で出版されたガードナー注釈書の決定版が、日本語で読めるようになった。高山宏にとってもモニュメント的な出版と言える。
訳文も再び全面的に見直され、2015年版の訳語を踏まえつつも、比較的大人しい翻訳になった。例えば 1章、“さか立ちしてる人たちの中に出ちゃったら”(1994.,2019.)としていた箇所は2015版で“頭を足にして歩いてる人たち”と訳され、今回“頭を下にして歩く人たち”と直された。“女公爵”も公爵夫人に戻った。
一方で過剰になった遊びもあり、1・2・4章の alas を“いかんせん!”という訳で統一したり、9・10章の Come on を“いざっ”と訳したりしている。今までガードナーの訳本は『不思議』と『鏡』に分けられていたが、本書は原本の体裁を踏襲して全1巻である。
〔→ 『鏡の国』〕