本文は電子書籍で、紙の購入書籍に付いているシリアルナンバーで登録しないと読めない。訳者が過去の翻訳をよく研究しているのは章題を見ただけでも分かり、「ドードーめぐり」は矢川澄子訳から。
「イモムシからのアドバイス」という訳は星野裕以降しばしば見られる。
「コブタとコショウ」の頭韻も木下信一、十一氏の訳以降のもの。「ウミガメフーミ」の訳語は大西小生訳から来たものだろうが、杉田七重訳を読んだだけかも知れない。
奇をてらわない、正攻法の訳だが、言葉遊びは あまり笑えない。例えば10章の Soles and eels(soles and heels)を「ツナ先とタツ底」(つま先とくつ底)としたのは苦しいが、田中訳においては巧く出来ているほう。
ウェブ出版。巻末の姉の黙想をのぞきアリスの一人称体で通され、この試みはうえさきひろこ訳、星隆弘訳以来のもの。
おそらく日本語としての自然な流れを重視したために例えば The antipathies の語は略し(オーストラリアをオーストリアと間違うという遊びで代換)、“CURIOUSER and curiouser!”は“おかしな お菓子”程度に簡単に訳している。
しかし、tale/tailのシャレを「こしっぽねを折らずに聞いてくれよな」と訳すなど工夫された言葉遊びは少なくない。ネズミの尾話は図形詩になってないが脚韻を踏んでいる(全体には詩の脚韻は中途半端)。7章章題は「マトモじゃないお茶会」で、9章では公爵夫人の醜さに言及しないなど、ポリコレ的な配慮も感じさせる。 〔→『鏡の国』〕
『ALICE'S ADVENTURES in WONDERLAND 不思議の国のアリス』IBCパブリッシング〈IBC洋書ライブラリー〉、2024.12.
Notes(文法・背景説明)和泉有香、日本語要約 松浦斉美、作品解説 レイナ・ルース・ナカムラ。装幀 高橋玲奈。本文イラスト テニエル。巻末に単語表も付いた英語学習書だがリライトではない。全文の訳はなく各頁に要約と難文に注釈が付く。
Note では 7章ヤマネの“well in”を「金持ちの」と解しているのが特異。9章、にせ海亀の学んだ課目に「Drawling,Stretching,and Fainting in Coils という本が出ていたり、Fainting in Coils という題名の曲があったりする」と注を付けるが、ほとんどは語釈的なもの。
芥川龍之介・菊池寛共訳、山本タカト画 『アリス物語 Alice's Adventures in Wonderland』れんが書房新社、2025.12.
〈小学生全集〉版を旧字旧かなで再現。誤字脱字は修正したとあるが、例えば 2章の Où est ma chatte?は chatle と底本どおりに間違えている。
本書の売りである山本タカトの絵は耽美色の強い画風で、カヴァー画以外はモノクロ。同時発売の特装版は限定999部でエディションNO.あり、匣入りクロス装に箔押し、サイン入り蔵書票付き。