本文は電子書籍で、紙の購入書籍に付いているシリアルナンバーで登録しないと読めない。訳者が過去の翻訳をよく研究しているのは章題を見ただけでも分かり、「ドードーめぐり」は矢川澄子訳から。
「イモムシからのアドバイス」という訳は星野裕以降しばしば見られる。
「コブタとコショウ」の頭韻も木下信一、十一氏の訳以降のもの。「ウミガメフーミ」の訳語は大西小生訳から来たものだろうが、杉田七重訳を読んだだけかも知れない。
奇をてらわない、正攻法の訳だが、言葉遊びは あまり笑えない。例えば10章の Soles and eels(soles and heels)を「ツナ先とタツ底」(つま先とくつ底)としたのは苦しいが、田中訳においては巧く出来ているほう。
ウェブ出版。巻末の姉の黙想をのぞきアリスの一人称体で通され、この試みはうえさきひろこ訳、星隆弘訳以来のもの。
おそらく日本語としての自然な流れを重視したために例えば The antipathies の語は略し(オーストラリアをオーストリアと間違うという遊びで代換)、“CURIOUSER and curiouser!”は“おかしな お菓子”程度に簡単に訳している。
しかし、tale/tailのシャレを「こしっぽねを折らずに聞いてくれよな」と訳すなど工夫された言葉遊びは少なくない。ネズミの尾話は図形詩になってないが脚韻を踏んでいる(全体には詩の脚韻は中途半端)。7章章題は「マトモじゃないお茶会」で、9章では公爵夫人の醜さに言及しないなど、ポリコレ的な配慮も感じさせる。 〔→『鏡の国』〕