金子国義は自身で抄訳（というより、言語遊戯過多の自由訳）も出している。　〔→「00年代リスト」〕

〔→ 矢川訳 『鏡の国』〕

ソフトな印象のファンタジックな絵に、よどみない文章で、本の出来としては悪くないが、詩の翻訳や言葉遊びの部分が芹生一訳（偕成社文庫）に頼りすぎで、ほとんど盗作まがい。〈世界の名作ライブラリー〉は全10巻中、第1巻『赤毛のアン』も橘高訳なので、翻訳そのものにあまり時間をかけられなかったのだろう。 “翻訳協力”株式会社バベル、と記載あり。　〔→「ディズニー」〕

赤鼻のアリス。「赤毛のアン」は狩野富貴 画。付、「おはなしアルバム」（皆川良一・静子 制作の“なぞなぞあそび”など）。

そばかす顔のアリス。　〔→ 間所「かがみのくに」〕

6頁のリライト。執筆者は不明だが、岡信子・清水朋子・多田瑞枝・戸田和代・西川夏代・矢部美智代・和田玲子のいずれか。 同様に少女漫画風のイラストは、あおきてつお・伊東美貴・岩切美子・小沢真理・紫田ひでか・高橋千鶴・中里あたる・森野エリヤ（五十音順）のいずれかが担当した。

こなれた文章で言葉遊びにも創意を見せ、かなり全訳に近いが、判断に迷うような細かい難訳箇所は思いきって省略する傾向あり。

絵本・ガイドブック・CD 3枚組の箱入りセット。一応「英語学習教材」に分類されるだろうが、単なる教材というには高級で、値も張る。

書題、“日本語版”という記載があるのは奥付のみ。　会話文で構成されるミュージカルふうの幼年向けリライト。
白ウサギの“うっさっ、うっさっ……。”という声は柳瀬尚紀（1987.）流。コーカスレースが“カワカス競争”とされるのは中山知子訳（1970.）を引き継いでいる。　“チェシャネコ”が“ニヤニヤニヤーゴ！”と鳴くのは独特。 　山本容子は桜井美知代（柳瀬訳、1988.）と同様に、帽子屋をキャロルのイメージで描く。

ルドミラ・バルフールはフランス在住のデンマーク人女性画家。 この本でも“うっさっ，うっさっ……。”、“カワカス競争”などは健在。トランプの庭師を“２の字”と呼ぶのは大西小生訳（2002.）に同じ。クローケー場のフラミンゴとハリネズミも、ひと言しゃべるのが珍しい。

〔→ 宗方訳 『鏡の国』〕

巻(まき)左千夫作、岡久留実画（撮影 岡本好明）『アリスちゃんのふしぎあそびえほん』ポプラ社〈たのしいゲームえほん〉10、1993.2.

表紙デザイン スタジオ203。カタカナにも振り仮名の付く幼年向け知育絵本。“ふしぎ かがみ つき”。“ティードル・ダムと　ティードル・ディー”が登場することやラストが“おたんじょうび／おめでとう!!”であることから、ディズニーの影響下にあるものと解るが（ディズニーでは A very merry un-birthday　　「誕生日でない日おめでとう」だが、『鏡の国』6章からというよりはディズニーからの影響だろう）、 キャラクターの造形は全くのオリジナルで、悪くない出来。いもむしは白ヒゲで博士ふう。チェシャねこは“かくしえのもり”に住み、トランプの“おしろのなか”はエッシャー流。

高取英『不思議の國のアリス』砂子屋書房、1993.2.


月触歌劇団の戯曲。
ちなみに演劇舎螳螂の最終公演「眠れぬ夜のアリス」（1994.9〜10.）脚本は『おとぎげき　小松杏里戯曲集』（而立書房、1995.5.）収録。 どちらの劇も「アリス＝ロリコン」の短絡的なイメージで語られている。

Martin Gardner 『More Annotated Alice』（1990.）の翻訳。ガードナーの「序」のあと、ピーター･ニューエル「一画家の見た『不思議の国のアリス』」、マイケル･パトリック・ハーン「ピーター･ニューエル（一八六二― 一九二四）、その人と仕事」が付される。 　　〔→ 高山訳 『鏡の国』〕

注釈無しの翻訳。　〔→「10年代リスト」〕

1994版を微修正した訳文。注釈無し。　　〔→ 「10年代リスト」〕

ガードナー注釈書の決定版。　　〔→ 「10年代リスト」〕

幼年向けダイジェスト。アリスのアイデンティティの危機の部分にページを割き、「かわいいワニさん」や「ウイリアム父ちゃん、いい年だ」の詩は訳す一方、コーカス・レースは省略するなど、これはこれで訳者の考えでエピソードを選択したものと思われるが、読んで面白い本とは言えない。子ども向けの脚注もやや不適切だが、それよりも少女漫画調の挿絵の稚拙さが気になる。付、“小学四年　沼田美緒”の感想文。

酒寄は独文系でこの本もドイツ語版からの重訳らしいが、「だ・である調」の訳文は、柳瀬尚紀、北村太郎訳等と比較して、なじみやすく感じる。大西小生が文体を選択するさいに最も参考にした翻訳のひとつ。

6章後半と 8章後半の翻訳。公爵夫人の台詞が「斧（アクシズ）で思い出した。この猫の首をちょん切っておしまい！」となっているのは奇妙。 mad の訳は“普通じゃない”。 原本 『CAT TALES：CLASSIC STORIES FROM FAVORITE WRITERS』（1989.） ルーイス・キャロル「チェシャ猫」以下、ローズ・ファイルマン「ペルシャ猫物語」、マーガリート・スティーン「小さな白い王様」、サキ「おしゃべりな猫」、 コレット「のっぽ猫」、シャルル・ペロー「長靴をはいた猫」、エミール・ゾラ「これが猫のパラダイス！」、アントン・チェーホフ「臆病なのは誰のせい？」、スティーヴン・ヴィンセント・ベネー「猫の王様」、マーク・トウェイン「ディック・ベイカーの猫」（いずれも青木訳）を収録。

アリスの一人称体による翻訳（末尾の姉の回想のみ三人称）。写真はアリスと全く関係なく、日常風景などをモンタージュしたに過ぎないが、スーパーマリオのソフトを撮った写真が一葉あるのは意識してのものか（このゲームに出て来るキノコが『不思議の国』からの引用であることは有名）。訳文も、よく言えば実験的で例えばアリスの一人二役は“アリス２号は泣いているアリス１号にむかってビシッといった。”という具合だが、全体に おどけた文章で、ポーカーフェイスの英国的な笑いからは遠い。 シリーズ続刊に、グレゴリー・マグアイア（原文ママ）『オズの魔法使い』、キャシー・アッカー『宝島』などが予告されている（マグワイアの『オズの魔女記〔WICKED〕』は訳されたが、アッカーの本は出版されてないようだ）。

〈世界の名作〉1 はピーター=パン。監修および“名作解説”西本鶏介。

大日本雄弁会講談社、1953年発行の“本邦初の絵本”を再編集したもの。奥付に“本文は当時の作品を参考にしています。”とある。 '53年版を当リスト編者は未見だが、確認できた'54年版と熊田の絵は同一（最後の姉の膝でアリスが目覚めるシーンのみ、'98年版ではイラストの上下が切られている｡ この切られた下端部に“GORO-KUMA”“1953”の署名がある。これを見て'53年刊行と思いこまれた可能性もあるが、『出版年鑑』にも'53年刊行の記載はある）。

カラー画は、8葉をハリー・G・シーカー〔Harry Theaker （1873-1954.）〕が1911年に、残りをディズ・ウォリス〔Diz Wallis〕 が1995年に彩色したもの （『 Nursery“Alice” 』のカラー画は著作権が切れているが、こちらの絵は無論、著作権の保護下にある）。
ハリー・シーカーの絵によって “うす紫の服に縞模様の靴下というアリスのイメージが定着することになった”。 また、1911版では 6章、樹上のチェシャ猫を見上げるアリスの絵を、シーカーが口絵に使うために描き足し、本来は L 字型のイラストが四角 になっている。

〔→ 脇訳 『鏡の国』〕

英文テクストは英語文庫版と同じ。

初のWeb翻訳として画期的なもの（これ以前に中断された星野裕訳〔下記〕があったようだ）。
山形訳はクロケー場のハリネズミをアナグマに、ロブスターのカドリーユおどりの詩ではカタツムリをウミウシに、イルカをヤリイカに替えている点が特徴的。

プロジェクト・グーテンベルグ版を基にした英文と山形訳を対照させ、オンライン辞書をリンクした電子本（IE6，Netscape7.1以上が必要）。判型など、今後の改良が期待される。 ただしグーテンベルグの英文は一般に流布しているテクストとは やや別系統（山形訳がグーテンベルグ版の翻訳である以上、しかたないが）。　辞書もダイレクト・リンクされているだけに、検索速度の意外な鈍さが逆に目立ち、まどろこしく感じる面もある。

漢字を増やすなど、一部 改訂した一般書籍。　〔→「00年代リスト」〕

最終更新　2022年 5月 7日