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Gwynedd Hudson
ちまちま とぶよ/おそらの こうもり(twinkle,twinkle,little bat!)

多く「光る、輝く」の意味で用いられるが、twinkle は「またたく、ひらめく」さまをいう擬態語である。
この詩の場合、夜空にきらめく星が、コウモリの羽がパタパタと、はばたくイメージに取って代わられる。
といっても特に暗いイメージはなく、ゴム動力で飛ぶ おもちゃ“こうもりボブ”もキャロルの小道具のひとつだった (トーヴェ・ヤンソン描く『不思議の国』のイラスト(1966.)には、やけにコウモリが飛びかい、逃れがたい終末感のようなものが、にじみ出ているが)。

twinkle は戦前の翻訳では「ひらり、ひらり」など、はばたく意味のほうが重視されていた。
戦後はたいてい「キラキラ光る」だけで訳し、詩の後半の Like a tea-tray を 「(キラキラする)銀トレイのように」として納得させたりするが、a tea-tray が「銀盆」であるという保証は別にない。
もしや〈黄金バット〉以来、コウモリが光るという現象は不思議でも何でもなくなったのか?**
ただ、海外でもグィネッド・ハドスンの 2色刷イラストのように、コウモリを光らせる解釈は存在する (上図)。

戦後の訳では田中俊夫(1955.)の「チラリ、チラリ」などが twinkle の本来の意味をかろうじて残していたのだが、面白いのは中間的な表現を採用した高橋健二訳

なお、この詩については、宗宮喜代子『アリスの論理』(NHK〈生活人新書〉、2006.)75-8頁の解説が詳しい。
J.E.Millais,Little Songs For Me To Sing (1865)
このパロディの元となったジェイン・テイラーの原詩‘The Star’(1806.)はガードナー『詳注アリス』をひもとくまでもなく、現在も多くの書物で見ることができる (Web上では『UNDERGROUND RESIDENTS』−「ALICE STORY」−「Nursery Rhymes in Alice」の中で、訳詩をつけて紹介している)。
現在歌われるメロディは、フランスの古謡をベースにしたものらしい。

拙訳の元にもなり、誰もが知っている「きらきら星」は武鹿悦子ぶしかえつこによる名訳だ。武鹿は『不思議の国』の幼年向けリライトにも手を染めた。
なお、和田誠 訳 『またまた・マザー・グース』(筑摩書房、1995.→文庫版 『オフ・オフ・マザー・グース』 2006.)には押韻を生かした訳が載っている。
『不思議の国』が出版された1865年に、ヘンリー・レズリー〔Henry Resriy〕の楽譜 『わがために歌う小曲集』(右図)に描かれたエヴァレット・ミレイの挿画には、アリスの面影がある。 この相似にはラファエル前派との同時代性、とりわけミレイの絵との近親性を考えさせられる。

(『鏡の国』 3章の車中でのアリスの服装が、ミレイの「はじめてのお説教〔My First Sermon〕」(1862-3.)、「2度目のお説教〔My Second Sermon〕」(1863-4.)と同じであることは、よく知られている。)

高橋康也教授は『アリスの絵本』(1973.→『アリス イン ワンダーランド』1976.→『ルイス・キャロル詩集』1977.12.)の訳詩に注を付し、次のような指摘をしていた。 『ノンセンス大全』(1977.1.)では教授は次のように書いている。 要は高橋教授のような碩学も、修正を繰り返す、ということ。
‘I am the Walrus’と、『鏡』の「セイウチと大工」の詩との関係を指摘したのは、日本では東野芳明 「『アビイ・ロード』の行方」(《ユリイカ》1973.1.号 →『曖昧な水 レオナルド・アリス・ビートルズ』現代企画室、1980.所収)が早いようだ。

(最終更新 2013年 4月15日)