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「だれが あなたなんか、気にするっての?」 とアリス (このときには、ふだんの大きさにまで、もどってたんだ)。 「あなたたちみんな、ただのトランプのくせに!」
 そのとたん、カードはいっせいに宙にまいあがり、アリスの頭上から、とびかかって来た。   こわいやら、くやしいやらで、小さなさけび声をあげ、カードをたたき落とそうとして、
( “Who cares for you ?” said Alice (she had grown to her full size by this time). “You're nothing but a pack of cards!”
 At this the whole pack rose up into the air,and came flying down upon her; she gave a little scream,half of fright and half of anger,and tried to beat them off,)

アリスが夢の世界を脱 し、現実世界へ帰還する直前の場面。
その手順は、まず、アリスが現実の身長に戻る。
→相手の 正体を暴露 する。
→相手から責められる (もっとも、カードが怒ったというようには書いておらず、原作のカードの動きは抽象的・機械的なもの)。
→反撃に出ようとしたとたん (暴力をふるう前に)、目が覚める。

vestigial noses Osborne flying cards
ガードナーも触れているように、テニエルのモノクロのイラストには、カードが擬人化されていたときの名残りとして、鼻の描かれているものが 3枚ある。
これは 『子ども部屋のアリス』 の、キャロルが色を気に入らず回収した初版 (オズボーン・コレクションで見られるもの。中央の図) の段階では、 モノクロ図版と同様だけれども、あまり見栄えが良くないためか、キャロルがOKを出した第2版 (1889年の刊行だが、扉の記載が “1890”) では、カードの鼻は、ほとんど消されてしまった。

ガードナーは 『決定版 注釈アリス』 で、スペードの 6の背後 に、B. ROLLITZ. という謎の名前の入っているヴァージョンが多いことを付記 している (12章注 8)。 名彫版師であるダルジール兄弟の、雇い人のひとりだろうという不確定情報で、ディープな原典ファン以外には、さほど意味のない話だが、彫師によって出来が大きく異なるという一般的事実 は、版画を見るさい、常に気にかけて置くべきだろう。
現在 市販されている本で、B. ROLLITZ. という名を見ることは、まず無いだろうが、戦後 1953年に出版された 楠山正雄の〈創元文庫〉版 には、このヴァージョンが使われている。