訳文をクリックすると注釈が「新規」に開きます。



 あの、なにもかも  まばゆい  午后に
      ゆる  ゆると  僕らは  水面(みなも)を  よぎり ――

 覚つかな  げな、おさない  腕が、
            オールを  両方とも、にぎり、

 水先を  きどる  姉妹の、たわむれの  手に
             旅の ゆくえも まかせきり。



    なさけ  容赦も  ない  三人。 昼下がりの、
             かくも、まどろむ  ばかりの 空もよう、

    せがまれて  語りださん  と  いきごめど
          けだるさに、羽毛ひとすじ、そよがぬ  よう。

    されど、かぼそい  ひとりの  声、いかに  して、
          かしましい  みっつの  舌に  あらがえ  よう。



 居丈高なる  上の姫様が  発する
          ご託宣 「もう  始めてよ  ね」 ――

 中の姫は、もっと  品よく、おねだり
    「おかしな話で  いっぱいでしょう  ね」

 どうせ  下の姫に、ひっきりなしに、
   チャチャを  入れられ  るんだけど  ね。



    だが、ほどなく  ふっと  だまりこみ、
         うっとりと、夢の中の子、追いかけて

    三人の、旅して  ゆくは  不思議の  国
      見るもの  聞くもの、でたらめで  初めて

    おしゃべり相手は  鳥や  けもの ……
             それが、うつつ  と  思われて。



 その  うち、もの語りは  しぼんで  ゆき、
              奇想の  泉も  かれて  しまう  と、

 くたびれた  語り手、おずおず  と、
                なんとか  話を  そらそう  と、

 「あとは  この次、しばらく  して……」と  うかがえば、
     はしゃぐ  子ら「しばらく  たったわ、ほら  早く」と。



    かくて  紡がれた、不思議な  国の  お話 ――
              ゆっくり  と、ひとつ  ひとつ、

    ひねり  だされた、風変わりな  事ども ……
                それも、今、幕を  閉づ、

    舵を  かえして、陽気に  家路に  つけば、
                夕日は  西の空に  落つ。



 アリスよ。子どもじみた  もの語り  ひと束  うけとり、
              どうか、たおやかな  君の  手にて、

 おさなき  日の  夢を  つづりし、思い出  の
                こころの  (あや)   に、そえておいて

 それは  さも、はるかな  国の  かたみにと、巡礼  の、
             摘んで、しおれた  花の  () に  似て。




本文へ
HOME